子供部屋は「個室」から「子供の未来を創る空間」へ

庶民の住宅に「子ども部屋」という子供専用の「個室」が日本に誕生してまだ70年です。
戦前の全体主義的な社会から戦後の民主化を進めて行く過程で、家族の在り方も民主化すべきとの考えから、生み出されたのが1952年に登場した2DKプランです。
この新しいプランの開発思想には「子供の独立性」と「女性の解放」という命題がありました。
子供を親の考え方に従わせるのではなく、独立した人格を持つ人間を育てるためにというのがその基本理念です。

それから70年、ユニセフの「子供の精神的幸福度ランキング」で調査対象の全39カ国中38位という結果に衝撃が走りました。
原因は様々考えられるとのことですので、今後議論されると思います。
調査方法そのものに異議を唱える方もいらっしゃいますが、国際的な機関による一つの客観的なデータとしてこれを住宅という視点から考えてみたいと思います。

子供部屋は文字通り「子供時代を過ごす部屋」ですから「子供の未来を創る空間」と考えても良いと思います。

子供たちのために住宅になにができるのかということも含めて考えてみましょう。

「個室」は「ハコ」から文字通りの「個性室」へ

子どもの将来への自由度を奪っているのは、案外最も子供のことを気にかけている親なのかもしれません。

中高生の親の主な年代は70年代生まれで自身が中高生のころにバブルとその崩壊を経験し、その後現在に至るまで停滞している世の中を生きてきましたので、「より堅実に」が子育てに反映したのかもしれません。

子供は将来への夢を見ます。憧れも抱きます。
これが本来は自身の人生を切り拓く原動力になるのですが、それを規制して安全な道を選択する様に、親が知らず知らずのうちに強制しているのではないでしょうか。

同じ調査で「身体的健康度」について日本の子供は1位です。
先進国の子供は肥満化に苦しんでいるにも関わらずこの結果ということは、「親の管理」が行き届いた結果です。

親の無意識の将来への管理が、「体は健康だが心はそうではない」ということになっているのではないかと想像されます。

21世紀はグローバルな多様化の時代です。
考え方も、これまで無かった新たな職業も次々に生れ、従来の考え方では理解できない職業も生まれるなどまさに多岐多様です(ex.これまで無かったYouTuberという新たな職業も登場)。

「もしあなたの子供がYouTuberになりたいと言い出したらどうしますか?」

より安全な道を歩ませたいという気持ちは分かりますが、子供たちのチャレンジング力を失わせているのは、案外「親の固定概念がそうさせている可能性が高い」と想像されます。
親が子供との会話の中で無意識に、「心豊かでワクワクする人生を歩む」チャレンジの芽を摘んでしまっているのかもしれません。

子どもの精神的な幸福度を上げられるのは親のあなたです。

これから家を建てようとお考えの皆さんは、子供部屋の役割について、もっと子供のワクワク感を尊重する子供の個性を体現するような部屋を創ってみてはどうでしょうか。

子供の夢と個性を伸ばす子供部屋

ジブリが制作したアニメーションを観て「アニメーション作家」になりたいと、あなたのお子様があこがれたとしましょう。
「いいわねぇ」と親は相槌を打つかもしれませんが、「それはそれとして」塾に通わせて良い大学、良い企業か、官公庁へという道を親がせっせとレールを敷いているのを子供は気づいて、知ってしまいます。

「ああ、やっぱりアニメーション作家への道はダメなんだ」と。

こういうことの積み重ねが「自己肯定感を持てない子供」を生み出し「精神的幸福度」が得られない結果へ向かわせてしまっています。

「いいわねぇ」の相槌を打ったその場で、お子様と一緒にネットオークションで宮崎駿のセル画を落札して額に入れてベッドの横の壁に一緒に飾ってみたらどうなるでしょうか。
たったこれだけで親が「自分の将来の夢を認めてくれた」という「自己肯定感」は、やる気スイッチを押すでしょう。

高畑勲も、新海誠など次々とお気に入りのアニメーション作家が増えるかもしれません。
子供の本気度が上がれば、もっとアニメーションの世界を子供部屋で体現して行きましょう。
同時にどのような能力が必要なのか子供と一緒に調べたり、実際に描くならアニメーション制作対応のタブレットとデスクと照明、関連する資料の収集など実現に向けて、具体的にチャレンジしてみることで、子供自身がこれは「好きなことだけど向いていないのかな」とか悩むかもしれません。
子供の考えや個性を尊重して育てるというのはこういうことではないでしょうか。
成長過程での成功も失敗も含めて、様々なことを許容できる子供部屋づくりを進めましょう。
その時々のワクワク感、ときめき感を育む新たな子ども部屋です。

これまで6畳に机とベッド、クローゼットだけでまるでビジネスホテルのシングルルームのような味気ない部屋に、アイドルのポスターを貼っているだけの部屋から「自分の未来を創る空間」へと視点を変えて、子どもと一緒にその子らしい子供部屋を創ってみてはいかがでしょうか。

兄弟姉妹が居る場合の子供部屋の新しいスタイル

一人っ子ではなく兄弟姉妹が居る場合の子供部屋の新しいスタイルが生まれています。

一般に子供部屋の広さは6畳前後ですから、例えば兄弟2人なら合わせて12畳です。
これを各個室に2畳配分し二人分で併せて4畳、残りの8畳は二人の共用スペースとして活用します
勉強もこの共用スペースで行います。
それぞれの個性を活かしたディスプレイの個性室、お互いを認め刺激にもなるように、それぞれの個性をディスプレイで表現する共用スペースとします。
2畳の個室は寝るときの自分ワールドの部屋。
2段ベッドの下段部分は洋服などの収納スペースとして2段目をベッドにします。

新たな兄弟姉妹の個性を刺激しあう個性室の考え方です。

同一基準で「比較しない」

兄弟姉妹間の学業成績など一つのジャンルで親が兄弟姉妹を比較するということは「優劣」をつけられたと認識され、成績が低い方は「自己肯定感」を得ることができません。
兄弟姉妹間でも自分と違う世界を観ていることを認め合うことで、相互の刺激になるという効果を生み出します。

違いを認め合うことは多様性社会へ船出していく将来に役立ちます。

まとめ

日本の子供を一言で表すと「体の健康度は高い」が「精神的な幸福度」は低いということです。

せっかく住宅を新築される場合には子供との向き合い方と併せて、「供部屋は『個室』から『子供の未来を創る空間』へ」を実現していただければと思います。
具体的な子供部屋の設計は子供の個性に合わせて行うのがベストですので詳しくは一般社団法人 住宅研究所へお問い合わせください。

info@housing-labo.casa

《執筆者》

一般社団法人 住宅研究所
代表 松尾俊朗
一級建築士

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