住宅営業は何処が競合先と考えて行動すべきか
2022/04/16
競合先を考えるとき、同じエリアで住宅事業を展開している価格帯が同じ住宅会社/工務店を考えるというのはごく一般的です。これは、私たちが住宅業界という世界でビジネスをしている以上そう考えるのが普通です。ところがお客様視点で考えるとそうでもないようです。
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住宅は手に入れたいものの中の一つに過ぎない
1着30~200万円くらいの高級紳士服のお店の方にお伺いすると、近くの同業他社はそんなに気にしない。それが仮に隣に開業したとしても。「高級紳士服の大切なポイントは、どのような場面で着られる服を求められておられるのか。これは、お客様との会話の中や社会的な地位などを加味して理解し、選択する生地の特性や裁断の仕方を工夫するなどはできる。また、仮縫いでは、大方のお客様は「気をつけ」の硬直した姿勢を鏡の前でとられるので、お店に入られた時のお客様の自然体なお姿を拝見し、理解しておくために職人に店舗内で仕事をさせるなど、自助努力ができますから同業他社に負けることはありません。」ということです。「リビングの大型TVが壊れたからとSONYの8Kテレビ85型を220万円で購入されるなどされると、スーツの購入優先順位が下がるのです。同じ客層の違う業種の方々の魅力に負けない魅力が必要なのです。」ということだそうです。示唆に富んだお考えです。
より魅力的な付加価値の提供へ
「当店のスーツは一度作ったら一生ものですから。何着もお持ちのお客様の中で、もっと魅力的なスーツを考えなければ生き残れないのです。下を見れば1万円で2着セールもありますが、そういう客層が対象ではないので気にはとめません。自店のスーツと同じお金を払う異業種が競合先です。より魅力的な付加価値が手に入るところへとお金が流れて行きます。」。
この論点で考えれば、高級紳士服店とSONYは競合関係にあるということです。より心豊かな暮しを持たらせてくれるものとの競合です。
●広く世間を見渡して自社商品の魅力度の競争力はあるのか
高級なスーツを着ていると、心に余裕が持てて何となく自信のある物腰になり、商談も上手く行くような気分にさせてくれるそうです。仕事上の懇親会で何人かで並んで写真を撮ると、「見た目の違い」は歴然で、「格の違い」を伝える効果もあるため、「あなたの店のスーツは手放せませんよ」と言われるそうです。ビジネスの優劣の前に勝負ありという付加価値の提供です。
異なる角度でSONYは付加価値を届けています。くつろぎの時間のエンターテイメントです。だからこそ競合になるという考えです。
●異業種研究も必要な時代
SONYが自動車産業に参入するそうですが、自動運転の普及が予想される未来の自動車は、「運転する喜び」から「運転する時間を別の有効な時間」に変えることになると見抜いて、ウィンドウも天井も全てスクリーンと化してエンターテイメントや会議、あるいは映画を見ながら横になって休息の時間などに使いましょう、という新たな付加価値の提供です。車の新たな魅力を付加価値として提供するようです。
心豊かな暮しをもたらす財布のシェア争い
下図のグラフは内閣府の調査のグラフです。日本人の価値観は「モノの豊かさ」より「心の豊かさ」を求めています。2倍ほど差がついています。
この「心の豊かさ」で各業種間の財布のシェア争いをしていると言っても良いでしょう。
下図の家計調査(2人以上の世帯)を見ていると、お客様とのやり取りで「住宅ローンはできるだけ抑えても、スマホの料金は払う、ゲームの課金は払う」という異業種間の「財布のシェア争い」が既に起こっていることが実感できます。
改めて問われる注文住宅の「心の豊かさをもたらす」付加価値
30才で家を建てれば、その後の60~70年間という時間の約70%の時間を過ごすと言われる住宅。その時間を「心豊かな時間に変える投資」を呼び込むための付加価値が提供できていないと思います。住宅というハコの性能を確保して、後はいかに安くそのモノを提供できるのか。というモノ視点に偏ってしまっているようでは、人生の多くの時間を支配できるという圧倒的にアドバンテージが取れるている業種でありながら、「財布のシェア争い」に負けてしまいます。
●「お客様の暮らしを中心に考える」という注文住宅の原点
モノづくりと一般解的なモノの販売では、多様化した現在のお客様個々の「心の豊かさ」は提供することはできません。「顧客第一主義」というような文言を社是や綱領で建前として掲げるだけではなく、「本気の取り組み」が必要です。注文住宅事業の原点は、「お客様の暮らしを中心に考える」ことですから、その実践が求められています。
●自社変革の時です
建築資材の高騰は当面止まりそうにもありません。モノづくりだけでは生き残れない時代です。単一価値観の時代に生まれた〇LDKプランに日本人が住み始めて今年で70年です。多様化した個々のお客様の価値観に対応するために、営業も設計も変革の時です。
まとめ
住宅業界内という狭い範囲で考えていると、「心の豊かさ」という価値観が定着している日本の社会では、異業種から提供される「楽しいコト」「面白いコト」という浅くはあるのですが、「心の豊かさ」コンテンツに押されてしまいます。「財布のシェア争い」に勝てる注文住宅の付加価値を提供できる変革を進めましょう。今がその時です。
《執筆者》
株式会社ハウジングラボ
代表取締役社長 松尾俊朗
一級建築士