土地を購入前に暮らし視点の設計者と相談しましょう

土地を選択する際には様々なことが頭をよぎります。

駅までの距離という立地、学校区、敷地面積、敷地と道路の関係と方位などなど。
ご予算内で全てを満足できる土地が出てくればよいのですが。
ご自身の暮らしで実現したいコトは何でしょうか。
土地選択判断の手掛かりの多くはお客様の中にあります。

また、一見「良くない土地」であっても「土地を購入」することが目的ではなく「良い住居を購入」するわけですから住宅建築側で土地の欠点を長所に変えることができる場合もあります。
土地購入は不動産業者からですが土地選択は設計者と相談することをお勧めします。
ただし、暮らし視点でお客様の実現したいコトを共有化して一緒に考えてくれる設計者です。

東南の角地で段差がある新興住宅地の土地

ずいぶん以前にご相談を受けたことがあります。

角地なので10%の建蔽率の緩和があり、何と言っても東南の角地だから購入しようと思うとのこと。

現地を確認すると道路との段差が最大で(ちょうど東南の角方向)で3mもあり擁壁工事にコストが掛かります。

しかし庭を広くとって様々な花々を育てたいという奥様の想いをお聴きすると同じ分譲地内の他の平地の土地で2台の車の駐車スペースをとると楽しみにされている庭は大きく制限されてしまいそうです。
コストはさらに掛かりますが段差を利用して掘り込み車庫とすれば庭は広々取れますし、東南方向の視界の抜けが素晴らしく若草山が遠望できます。

しかし、擁壁等のコスト試算をご覧になられたお客様はギョッとされて諦めかけておられました。

住居は消費ではなく人生への投資

若草山の山焼き、新緑の季節の周辺の住宅街の更に向こうの遠望が見渡せる立地。
特に東南の角の対角線にあるお宅の敷地はさらに下がって段差は5m以上あります。
つまりカーテンレスで開け放しても東南と南方向からは外部から覗かれることがない敷地です。

ここに住まわれるとすれば何年住まわれるのか。
30才のお客様でしたから60年間は住まわれると推測すると当時でも諸々併せて360万円ほど「余計な出費」が掛かります。
しかし年単価で考えれば6万円/年、月額5,000円です。
この投資でカーテンレスの開放的な暮らしが365日手に入るとすれば僅か167円/日の投資で手に入る心豊かな暮らしは投資対効果は大きいと思います。

若草山の山焼きも年中行事の風物詩です。
資金計画が成立するかどうかということで保険料なども様々再検討して投資可能という結論がでました。

カーテンレスの注意点

夏の日差しは強いですが太陽高度は高い、冬の日差しはやわらかいが太陽高度は低いので眺望的にカーテンレスのお住まいが可能な場合は「軒の出(出幅)」が重要です。

夏の日射を避けて冬の日差しを室内に取り込む設計を行えばパッシブソーラー効果が得られます。

段差のある敷地のデメリットの共有

3mの段差があり敷地は毎日13段程度の階段上り下りすることになります。
健康に良いからと捉えるのか、これは大変と捉えるのか、宅配の荷物は何処で受け取るのかなど様々考える必要がります。

このお客様についていえば高齢になって階段が苦しくなったときは掘り込んだガレージ内からのエレベーターも最悪設置することも可能としていますがどうも現実的ではないと考えてそのようにお伝えして検討していただきました。

毎日フィットネスクラブに通って足腰を丈夫にしますという決心でした。

40年後のこの土地を購入した評価はどうなったのか

70歳を超えて益々お元気なご夫婦です。

結果としては足腰もまだ丈夫で階段も元気に上り下りされていますし、何と言っても花いっぱいの庭とそれに続く遠景がカーテンレスのリビングから一望でき「投資甲斐があった」という評価に落ち着いています。

30~50年先の暮らしを読むというのはなかなか難しいのですがそういう時間軸で考える必要があります。

この案件は成功例ですがそうならなかった例もあります。
北側に道路があり南側にかけて下がり続ける傾斜地を購入されたお客様がおられます。
理屈としては北側の道路を基準にスラブというコンクリート版状の床を持ちだして鉄骨で支えるということはできます。
カッコイーし、見晴らしは瀬戸内海一望で最高ですがいくら温暖な岡山県の沿岸部とはいえ冬期間は建物の6面体全てから冷やされるのでいくら断熱を強化しても冷えを抑えるには限度があります。
特に眺望優先でガラス面積が大きいため建築でのカバーは不可能です。
この土地はあきらめましょうと申し上げたのですがどうしてもということで購入されました。
他の設計者が対応されましたが、結果としてはカッコイー住宅を作ることに主眼が置かれ日常の暮らしや四季を通しての快適性、半世紀以上も暮らす住宅としては無理があったようです。
やはり冬期間がどうにも寒く体調まで崩されたということを最近になってそういうことをお聴きしました。
結局手放されたようです。

設計でクリアできることもあるができないこともある

敷地選択は様々な要件を満たすことが要求されますが建築というのは敷地の欠点をカバーし時には長所に変える力があります。

ただし、そこでこういう暮らしがしたいということをお客様と設計者が共有化して一緒に考えることが大切です。
この暮らし視点でお客様の実現したいコトを理解できる設計者が知恵を絞って「ここならクリアできます」というなら根拠を聴いてお客様自身が判断するようにしてください。

その時点の評価だけではなく長い期間の「暮らしを楽しみ人生を楽しむ住まいの実現」という視点で考えましょう。

暮らし視点の設計者は極めて少数派

世の中に居ないわけではありませんが暮らし視点の設計者で、なおかつ半世紀以上の時間軸でお客様側に立った設計者は残念ながら極めて少ないと言わざるを得ません。

設計者へ実現したいコトを申し出てください。
実現したいコトの理由とか原因を質問してくる設計者は少なくとも暮らし視点はある程度理解できる方だと思います。

実現したいコトを申し出た際に「必要広さは」とかプランを書くために必要な情報を求めてくる設計者は「暮らし視点」が欠如していると考えても良いと思います。

まとめ

敷地の選択は土地単独で行うのではなく建物と一体で実現されたい暮らしのコトが本当に実現可能なのかという視点で考えてください。
同時に今後生涯に亘る時間軸も横目で見ながら判断するようにしてください。

暮らし視点で実現したいコトをよく聴いてくれる設計者を選び一緒に土地選びを進めましょう。

《執筆者》

一般社団法人 住宅研究所
代表 松尾俊朗
一級建築士

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