現実味を帯びてきた家庭用核シェルター

ロシアがウクライナに侵攻して数日が過ぎた時点で、プーチン大統領が核兵器の使用をちらつかせて緊張が走りました。
日本から8200kmも離れたウクライナのことも心配ですが、すぐ隣の北朝鮮は今年に入ってからも頻繁に弾道ミサイルを打ち上げ続けています。
日本列島のすべてを射程距離にとらえている弾道ミサイルノドンは、数百発が実戦配備されていると言いますし、つい最近では核兵器搭載可能な迎撃困難と言われる新型巡航ミサイルを発射し、8の字飛行実験にも成功しています。
もちろん、中国本土各地の弾道ミサイルサイトは日本の主要都市に照準を合わせていると言います。

ふと顔を上げて周りを見渡せば、身近に危機が迫っていることに気づきます。

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各国の人口当たりの核シェルター普及率

NPO法人「日本核シェルター協会」より

人口当たりの核シェルターの普及率は2014年のデータしかないのですが、スイスとイスラエルは100%、ノルウェー98%、アメリカ82%、ロシア78%、イギリス67%で日本は0.02%とほぼゼロと言っても良いくらいの実情です。
スイスは1963年のキューバ危機(冷戦時代のソ連とアメリカとの間で核弾頭ミサイル発射ボタンが押される寸前まで緊張が進んでしまい世界を震撼させた2週間)後に全戸へ核シェルター設置を義務化をしています。

これらの国々と比べてはるかに核の脅威が現実味を帯びている渦中の日本は、相当にのんきなのか現実を見ていないのかと首をかしげたくなる状況だと思います。
国会でも参議院の第200回臨時国会で、この核シェルターの普及率の低さは取り上げられてはいますが、国主導で動く気配はありません。

自分の身は自分で守る

古今東西の治世は治山治水が大原則です。

今年度予算にも国土強靭化への予算も割り振られ、今後予想される地球温暖化に伴う気候変動に備えようというのは分かります。
一方、国民の命と財産、国土を防衛するというのも治世では最重要項目です。
陸海空宇宙にサイバー空間まで国防予算は毎年増額されています。
確かに国として高まる国際緊張への危機に対応していると言えます。
尖閣問題を抱え、虎視眈々と台湾を手に入れようとしている中国の脅威は、ロシアによるウクライナへの侵攻で現実味を増しています。
香港の民主主義の火が消えようとしている姿は、明日の台湾ではなく、もう何時そうなってもおかしくない「今日の台湾の話」です。
与那国島と台湾は100kmちょっとの距離です。
いつ何が起こってもおかしくない地政学上の問題が日本には横たわっています。

戦災も人災ではありますが、庶民としては天災の一つだと考えると、最後は「自分の身は自分で守る」という、政府や自治体に頼るだけではなく、「自分で考えて準備し行動する」ことは当たり前のことだと思います。

中学生はもちろん小学生や幼稚園児ですら地震や津波に対して自分達はどう行動すべきなのか一人一人に考えさせる教育をしている防災大国の国民として、また、あれほどの戦災を先代、先々代の世代が受けたにも関わらず、ましてや広島、長崎という被爆体験を持つ唯一の国、国民として過去の教訓が生かされていないように思います。

●日本の外に目を向けて天災への備えと同じように戦災に備える

敗戦から間もなく77年を迎えようとしていますが、日本を取り巻く国際環境は大きく様変わりしました。
中国は、戦後しばらくは国土は広く人口は多いが閉鎖的で国力は脆弱でしたが、2030年代にはアメリカを追い越す国力と軍事力を持つ超大国であり、権威主義国家です。
軍事力ではアメリカ一国では押さえきれなくなってしまい、日米豪印の「クアッド」で何とか抑え込もうとして、様々な多国間協力に向いつつあります。
一方、北朝鮮は国力は小さいが国民生活を圧迫してでも核兵器で存在を示そうとする独裁国家です。
核開発とその運搬手段である弾道ミサイル、超高速巡航ミサイルを実用化しています。

東南海地震や首都圏直下型地震のような天災がいつ起こってもおかしくないのと同じように、「今そこにある戦災」の危機へ対処すべきです。
戦争は国家の努力で国際社会と協力して回避すべきですが、「話の分かる隣人ばかりではない」国際情勢下では戦争が勃発してしまえば被害を被るのは私たちです。
天災と戦災は最後の部分は「自分の身は自分で守る」という原則に目覚めましょう。

核シェルターは標準仕様の時代へ?

あまり想像したくはありませんが、核ミサイルが着弾したとすると、熱線と爆風で吹き飛ばされて焼け野原になり、放射能で汚染されます。
これに備えて、自家用車を停めている駐車場の地下に核シェルターを設置しましょう。

4人家族で2週間ほど、放射能濃度が人命に直接影響が出ない程度まで下がる期間を過ごす核シェルターです。
地下4~5mくらいが床面になるくらいの地下空間で、天井高は2.5m程度の4畳ほどの空間です。
放射性物質の除去ができる空気浄化装置(電源が切れても手動で動かせる)、温熱環境は地下ですから地熱の15℃に期待しましょう。
ある程度の我慢は必要です。
床下に収納も設置して、水と食料を備蓄しておきます。
トイレは汚水タンクを床下に設置するなどで、そこそこの快適環境が得られそうです。


戦災を逃れるサバイバルルームですから多少の我慢は必要ですが。
現状の国際情勢は、このような核シェルターを標準装備することが現実となった時代ではないかと思います。

●新たな住宅需要です

核シェルター付きの住宅は、明かに新たな需要を生み出します。
もちろん既存の住宅への設置も含めて需要はありそうですが、この需要は喚起するための社会的啓蒙活動(核戦争の脅威をあおるというのは民間企業が行いにくいテーマですが)と、それによる国民的な核シェルター設置へのコンセンサスが必要です。

集合住宅の核シェルターも当然設置されますが、数日ならまだしも、2週間程度となると狭い窮屈な環境で人と人との軋轢も起こると思います。
夜泣きの赤ちゃんとか、喘息のお子様を抱えて多くの方と過ごすのは大変です。
外部に出ることができない環境での避難生活は、相当な困難が伴います。
もちろん助け合うということも多くあると思いますが、気兼ねの連続はストレスを高めて持病も悪化しそうです。
家族だけの核シェルターは、戸建住宅の魅力の一つになりそうです。
スマホさえ持っていれば外部の人達とつながることもできますから。

●そうは言っても国の支援が必要

核戦争の脅威などと言うテーマは、やはり民間のマーケティングや啓蒙活動とはなじみにくいので、やはり国や自治体がある程度主導して、様々な助成措置を設けないと「全て民間で」とはいかないと思います。
この戦災への対応というテーマは、最近の集中豪雨災害や巨大地震への備えと同じように、緊迫する国際情勢下においては「急を要する」テーマでもあります。
まず、民間企業の我々で出来ることから準備を進めましょう。

まとめ

核シェルターというSFのような話がリアリティを持つ悲しい時代です。
嘆くよりも現実的に一人でも多くの命を救って私たちが生き残っていくために、災害対応住宅ももちろん重要ですが、住宅に核シェルター標準装備を目指して立ちあがるべき時が来たと思います。

《執筆者》
株式会社ハウジングラボ
代表取締役社長 松尾俊朗
一級建築士

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