これからの時代変化を見据えた自然災害に強い家の考え方

「大地震の頻発」「大型台風の出現」「集中豪雨災害」「豪雪被害」等など世界的に見ても「日本は災害大国」であることは周知の事実です。
ハウスメーカーにおいても独自の災害対策住宅が開発されていることは良いことだと思います。
今後益々様々なアイデアと普及の努力に期待したいと思います。

一方で、社会の変化のうねりは静かに、確実に進み現在の暮らし方と70年前に開発された2~4LDKプランでは暮らしにそぐわない点も目立ってきています。

この災害というマイナス面への対応とこれからの時代変化を見据えながら「住まいを楽しみ人生を楽しむ暮らしの実現」という暮らしのプラス面について考えてみたいと思いまます。

冒頭の2棟の模型の画像をテキストの参照にしてください。

Contents

高床式という古来の知恵の応用

1000年以上も前から国家の宝物を守り保管してきた正倉院も高床式です。
正倉院とは高床に対する考え方はやや異なるのですが、洪水に見舞われても居住階を守るという物理的に回避可能な構造として現代によみがえらせました。

冒頭の写真、向かって左のAタイプと右のBタイプでは考え方がやや異なります。
Aタイプの地上階は「スカスカ」でいつでも洪水などの水害対応のオープン駐車スペース。
Bタイプの地上階は「平時には+αの部屋として活用」し災害時には上階へ避難するという考え方です。

高床式の課題の克服

高床式の難点はまずは「居住階までの高さ」の克服です。
参考にしたのは20世紀の3大巨匠であるフランク・ロイド・ライト、ル・コルビジェ、ミース・ファンデル・ローエの「階段に対する考え方」です。

Frank Lloyd Wright 「スキップフロア」兵庫県芦屋市「邑山邸(ヨドコウ迎賓館)」
「数段づつ上がっているうちにいつの間にか4階ににまで上がってしまうという階段」
Le Corbusier 「建築プロムナード(スロープ)」パリ郊外ポワシー「サヴォワ邸」
「スロープを上がりながら眺めが変わる風景を楽しむというプロムナード」
Ludwig Mies van der Rohe 「上りたくなる階段」シカゴ「イリノイ工科大学クラウンホール」/シカゴ郊外「ファンズワース邸」
「『世界一美しい』上がってみたくなる階段」

恐れながらも3巨匠に「階段のコンペ」に参加いただいたような気分になりながら外部のアプローチ階段を検討し、ミース先生の「上ってみたくなる美しい階段」を採用し、日々の昇降へのストレス軽減を図りました。

ちなみにAプランの内部は、FLライト先生のスキップフロアを採用し、水平方向への広がり感に加えて縦方向にも伸びるフルオープン空間を実現しています。

特に事実上の2階リビングですから、テラスの目隠しと併せて外部への開放感を生み出しています。
主屋根をテラスもフルにカバーする様に伸ばし、主屋根の先端は低く抑えて水平線を強調しています。

●高床式の冠水時の安全性

地盤面が冠水した際の物理的な安全性を確保すると同時に、敷地が市街地であってもリビングからの視界の抜け感を確保できるなど高床式の利点は多くあります。
災害というマイナス局面への対応だけでなく、日常の暮らしを心豊かにする空間づくりというプラス面の利点も同時に手に入れる設計デザインです。

●スキップフロアで高さを制限

室内空間にスキップフロアの考え方を採用することによって、様々な高さから各空間への未渡し、視界の広がりという「オリジナルな空間体験」と合わせて、極力高さを押さえて外観デザインにまとまり感を与えています。

日常の暮らしを心豊かに楽しみながら災害に備える

住宅の性能を維持出来る現実的な寿命を100年と仮に設定すると、何回かの災害に合う危険性は大いにありますが、時間軸で考えれば「極短期間」の「災害非常時」と「はるかに長い期間」の「通常時」を両立させる考え方が災害住宅設計の視点として必要です。
「災害時の安全安心」を確保するのは当然ですが、「はるかに長期間の通常の暮らし」に犠牲を強いるのは極力避ける設計をすること。
これが災害住宅の設計の根底にある思想であってほしいと思います。

●「住まいを楽しみ人生を楽しむ暮らしの実現」

お客様が心豊かに暮らすための器が住宅とするなら、災害対応との両立は絶対条件と言えるでしょう。
地震多発期にある日本列島では、耐震性の強化も重要です。
地球温暖化による巨大台風への備えと、極端に温度差のある夏と冬の気候変動などへ対応でさらなる断熱気密性能の強化も必要です。
また、既に常識化しつつあるSDGsへの対応もさらに高いレベルと進むべきです。
こうした様々な住宅設計上の課題に対応するのは、これからの未来の住まいづくりの前提条件をクリアしたにすぎません。
改めて住まいづくりとは何なのか。
様々な課題対応をしながら「住まいを楽しみ人生を楽しむ暮らしの実現」という住まいづくりの本質を見失わないように、しっかりとした軸を持って住宅商品開発/住宅設計を進めることが大切です。

●住宅への投資は人生への投資

様々な暮らし方は、混在する多様化した社会ではありますが、概ね人生の70%以上の時間を住宅内で過ごしていのが日本人の実態です。
豊かな人生を送るためには、その人生のステージ、暮らしの器である住宅へ投資することでもあります。
投資しがいのある魅力ある住まいづくりが設計者に求められています。
魅力の対価が付加価値です。
個々のお客様にとって魅力的な人生のステージを生み出す努力が必要です。

まとめ

ここで取り上げた災害対応住宅のAタイプ、Bタイプは、2008年に関係先との全国ミーティングで株式会社ハウジングラボが発表した当時研究開発中だったプロトタイプです。
発表当時の14年前の比べると自然災害の危険度は高まる一方、暮らし方の多様化も随分と進みました。
平成から令和に時代は移り、改めて心豊かな暮らしと災害対策を両立させる研究の重要さを改めて確認しました。
このプロトタイプが示した未来の環境はもう現実の世界になっています。

《執筆者》
株式会社ハウジングラボ
代表取締役社長 松尾俊朗
一級建築士

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