デジタル時代の注文住宅事業の進め方

デジタルネイティブ世代と言われる世代は1981年前後に生れた世代以降のことを指しますが、まさに建築適齢期の世代は全て「デジタルネイティブ世代」です。

情報は無料であふれているのが当たりまえ、お見合いという制度には否定的でも「マッチングアプリ」での出会いは受容れ、考える前に検索するという世代です。

これからの注文住宅事業は、こうした世代の思考と行動パターンを理解した上での対応が求められます。

Contents

自社の特長訴求からお客様が実現したいコト中心の発想へ

前提条件として、令和の現在は「住まいづくり情報の発信者」は「プロと自認する業者」ではなく、「お客様」だということです。

様々な情報にアクセスして「自分なりの情報を収集」し、自分なりの集めた情報から「こんな感じにしたい」というお考えをお持ちです。場合によっては、「学者レベル」の知識をお持ちの方もいらっしゃいます。旧来の自社の特長を話したいという住宅営業は「うざい」存在です。「顧客中心主義」と言う建前ではなく、実質的な「お客様中心の住まいづくり」への発想と行動転換が必須です。「お客様を受容れる」という基本姿勢が住宅営業の最も基本的な姿勢です。

「お客様を受容れるというのは、お客様のご発言の意図を理解し、価値観を理解する」ということです。

事前のネット情報で「選ばられる」ための情報発信の質と量

総合住宅展示場の来場者がコロナ禍で減少しましたが、受注は好調という会社は多くあります。ネット上で選別して、訪れる住宅会社のモデル住宅を事前に絞り込んできたというお客様が大半です。「選ばれる」ための情報発信が重要です。検索キーワードも重要で、自社ホームページをヒットしてもらえるような工夫はもちろん大切ですが、その程度の軽い対応策ではもはや通用しません。
検索に引っ掛けてもらおうという消極的なことだけではなく、発信する情報の量と質を上げる必要があります。

●ビジュアル情報(画像/動画)が多く含まれる情報

「パッと見て分かる、いいなと感じる」というのがビジュアルで訴求する内容です。「百聞は一見に如かず」という言葉通りです。伝え方の質を上げるということです。
ただし、曖昧なイメージではなく、「なあるほど」と具体的な内容が伝わるという質の画像/動画です。

●SNSと記事での情報発信

Instagramでの画像を中心とする情報発信は、「部屋を撮影した写真」をアップするだけではそこでどのような暮らしが繰り広げられているのかが見えません。人を入れて暮らしのシーンの一コマとして、楽しい暮らしぶりを見えるようにして伝えます。ホームページに掲載する記事も具体的なお客様の事例について、個人情報保護について十分に留意した上で、「実現したいコト」を共有化したプロセスや実現のための工夫などを具体的に記し、お客様との向き合い方などの会社の姿勢やポリシーを発信します。

お客様を受容れる最初期の段階で「暮らしインタビュー」は効果的

ご来場される段階ではお客様の反応、お考えなどは実に様々です。特にこれと言った考え方はなく、「先ずは見てみよう」というお客様から「断熱気密工法はこうしたい」という「プロどころか学者顔負けの知識をお持ちのお客様」など様々です。様々なお客様の状態を「受容れ」て、「お客様の暮らしを中心」にお話をお伺いします。その際に、お客様の想いやお考えを理解しながら、現状の暮らしと新しい住まいで実現する暮らしをどうするのか整理を行いつつ、「暮らしインタビュー」を実施するのが本当は効果的です。面談の最初の段階で、ご自身の想いや考え方を整理し価値観を共有化することができると、お客様と同じ方向を向いて住まいづくりをご一緒に進めることができます。このお客様vs.住宅営業という関係から、共に住まいづくりを進めるパートナーの位置づけへ関係性が変化します。
この部分がデジタル時代の落とし穴です。デジタル情報のやりとりではなく、お客様と住宅営業が「実現する暮らしとは」という視点で向き合います。一般論の多くの情報を基に、ご自身の暮らしという固有名詞の視点で考えるということです。人間とその暮らしを理解できるのは人間です。ここへしっかり対応しましょう。

「暮らしインタビュー」の実施には専門の研修は必要

暮らしインタビューを実施できるようになるためには、専門の研修を受けていただく必要はあります。身に着けていただく「スキル」もありますが、一番のポイントは「お客様と暮らしへの強い関心」の2点です。やや資質的な要素もありますが、世の中の6割以上の方はそのチャンネルを比較的簡単に開くことができます。
お客様から見ると自身の考え方や価値観を理解してくれて、暮らしに強い関心を持ってくれる住宅営業ほど頼りになる住まいづくりのパートナーはいないと思います。

●生活パターンをお客様自身が認識するところから

暮らしインタビューは、先ずお客様の平日と休日の24時間の暮らしを時間単位で書き出していただくところからスタートしますが、初期の段階では「何も書けない」というお客様もいらっしゃいますので、ご一緒に記入を進めます。「出来るだけ詳しく、欄に書けるだけ書きましょう」からスタートして、ご一緒に記入している住宅営業が書きながらお客様の暮らしが目に浮かぶようなら、書き方のレベルとして十分です。お客様の現状の漠然とした暮らしをデジタル化して共有化します。

●お客様が現状の暮らしを自覚されたらほぼ受注可能です

注文住宅の本質は「お客様の暮らしにフィットした住まいづくり」ですから、お客様がご自身の暮らしを理解しているということがポイントです。案外これが正しく理解されていない場合が多く見受けられます。
その上で「新しい住いでこれだけは実現したいコト」を絞り込んで暮らしの重心を共有化します。従って起点はお客様が正しくご自身の暮らしを認識、自覚されることです。

・参考記事「住宅営業は2段階方式へ切り替えが合理的な時代」

・住宅設計研修「暮らしインタビュー設計研修」の詳細はこちら。

まとめ

デジタル時代は情報が氾濫しており、お客様はご自身の考えや感性で情報を取捨選択されておられます。それへの対応がまず必要です。ネット上で選ばれるための発信力が必要です。モデル住宅や完成住まいの現場見学会でリアルな状態でお客様と初めてお会いしたら、「お客様の暮らしを中心」に「暮らしインタビュー」を進めるという対応が最もお客様の暮らしづくりに自然には入れて受注確率が高くなると考えられます。検討されてみてはいかがでしょうか。

《執筆者》
株式会社ハウジングラボ
代表取締役社長 松尾俊朗
一級建築士

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