住宅営業は2段階方式へ切り替えが合理的な時代

世界最古の企業は大阪の株式会社金剛組です。西暦578年四天王寺建立のために、聖徳太子に百済から招かれた金剛、早水、永路の3名の宮大工の金剛氏によって創業されたとされます。建築というモノづくりのプロ集団の誕生です。衣食住の「住」を支える大工、工務店は必要不可欠な存在として発展してきました。その後、時代は下って、1961年にはデーパートの屋上でハウスメーカーがモデル住宅の展示を行ってから「住宅営業」が始まりました。
住宅営業の歴史はザックリ60年余りというところです。そろそろ次の営業のしくみが必要になっています。「住宅営業の2段階方式」という新たな考え方です。

住宅営業は家というモノ販売の歴史

住宅営業が登場する以前は、庶民が住宅を作る際には人脈伝いに大工さんへ住宅建築を頼んでいた時代が長く続いていました。素人がいきなりプロの技術者に住宅を発注するのですから、この時に役立ったのが畳というモジュールです。「何畳の部屋がいるんだい?」「6畳と4畳半と土間の台所ね。分かった」というように、プロと素人が分かりあえるモジュールが便利でした。1952年以来、ここ70年間は2DKから始まって4~5LDKという具合に、数字とローマ字の組み合わせ4文字で概ね話が見えています。これにタタミ2畳で1坪だから40坪とう広さ、階数をかけ合わせれば大体の家の形を共有化できます。それに屋根の形を寄棟か片流れとかが加われば、住宅というモノの形が分かります。
それに加えて、80年代以降は徐々に断熱気密性の向上、95年の阪神淡路大震災以降は耐震性と性能面は飛躍的に向上し、高装備な設備と相まって21世紀の初めには、日本の住宅は世界最高の住宅建築というモノにたどり着きました。住宅営業は基本的にこうした「モノ販売」が基本機能です。

住まいづくりの主役は「造り手」から「住まい手」へ

「頼まれて仕事をする」という時代には営業は不要でした。木造建築という一定の建築概念の中で、大工の技術力の差程度しかありませんし、技術力の差が素人に分かるはずもないので、まあ信用できる人だからという視点で「頼まれて仕事をする」ところからモノの評価の差が設備や、木造改良工法や2×4、軽量鉄骨造など多岐にわたるようになり、モノの差別化で住宅を売る「住宅営業」という職種が登場しました。さらに、お客様の暮らし方が近年急速に多様化し、SNSなどの情報発信と情報収集機能が格段にアップしたため、住まいづくりの主導権は「造り手」から「住まい手」へと真逆の状況が生じました。
「何でも作れる」という住宅会社/工務店のモノづくり機能と断片情報だが、色々と情報を持っているお客様からの「住宅への要求」では、「住まいづくりの重心がまとまるはずもなく散らかって収拾がつかない」ため、結局、「価格制約という言い訳でいつもの4LDKへ」というのが現在の住宅業界、住まいづくりの現状の姿です。
何が問題なのでしょうか。

●住宅営業はあくまでも「住宅というモノを売る」職種

問題の本質は、多様化したお客様の暮らしを理解するという新たな機能が住まいづくりプロセスに必要であるということです。
その機能を住宅営業に持たせるというのは、そもそも無理があるということです。「実現したいコト」を理解する部分と「実現したいコトを構成するモノ」を説明する機能に分離することが必要です。後者が住宅営業の仕事です。

●住宅設計も「住宅というモノを設計する」モノづくり職種

設計は「実現したいコト」が決まった後の情報に従って「住宅というモノを設計する」モノづくり職種です。
従って設計に「実現したいコト」を聞き出せというのも無理な話です。新たな職種が必要です。

「暮らしインタビュー」+「住宅営業」の2段階方式

いきなり「住宅というモノ営業」は、本質的に注文住宅では無理があります。
オーダーメイドが基本の注文住宅は、オーダーの基になるお客様の暮らしと価値観を理解する職種が必要です。
上図の赤色の住まいづくりの起点となる情報を、お客様と共有化する機能が必要です。
ローコスト系の住宅にはまだ不必要な機能かもしれません。

逆に、中高級住宅とローコスト住宅のハード面や見た目の差が見えなくなり、「住宅のクラスレス化」が起こっていますが、この暮らしインタビューによるお客様の「実現したいコト」「価値観」の共有化に基づく住まいづくり部分は、「ローコスト住宅」と決定的な差別化を実現します。「個々のお客様の暮らしを中心に進める住宅」という注文住宅の本質への対応機能です。

参考記事「住まいづくりのコンダクターが必要な時代」

暮らしインタビュアーの養成

暮らしインタビュアーの資質として、人に強く関心を持つことができるなどのいくつかの要素は必要です。お客様本位の高級ホテルの社員などの素養と同じだとお考え下さい。完璧な素養を持った人はそうはいませんが、65点程度なら人材確保は可能です。あとは、きちんとした考え方を持った接し方を研修と訓練、実戦指導で養成します。住宅建築、住宅販売、住宅設計の知識はある程度必要です。
教育的要素はありますが、「目的を理解して自力で考えることができる」人材育成です。

●新たな仕組みを構築してのアウトソーシングも可能

人材養成/育成と同時に、初期には「暮らしインタビュー機能を保有する企業とタイアップして実践してみること」から始めて、同時に実戦的な人材養成を進めるというのが現実的な考え方だと思います。

まとめ

「住宅というモノを売る」住宅営業という職種が生まれて約60年。個々のお客様が多様化し、「モノからコトへ」の時代の流れの中で、住宅営業に欠落した機能が鮮明化してきました。住宅営業は、新たな段階を迎えつつあります。
新職種への対応が急がれます。

《執筆者》
株式会社ハウジングラボ
代表取締役社長 松尾俊朗
一級建築士

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