住宅営業は様々な業種との「心の豊かさ比較」で競合

日本社会はモノが充足しています。下記の持家着工数推移のグラフを見ても、1980年までにピークアウトして住宅の数は足りています(図-1)。同じく、1980年過ぎに日本人の「豊かさの判断尺度」は「モノの豊かさ」基準から「心の豊かさ」を基準とする考え方へと転じ、現在ではその評価は倍ほど開いてすっかり定着しています(図-2)。一方、家庭の消費支出構成比(2名以上の世帯)は消費金額が伸び悩んでいますが、通信交通費はその中でも構成比を上げてきています(図-3)。
住宅はより安く買って住宅ローンは節約したいが、スマホ代は出すという現象です。スマホの方が楽しいのでしょう。心が豊かになるのでしょう。ここが住宅業界の課題です。全業種の中で「心の豊かさ比較」で財布のシェア争いに負けています。

〈図-1 持家着工数推移〉 国土交通省
〈図-2 豊かさの判断尺度推移〉 内閣府
〈図-3 家庭の消費支出/構成比推移〉 総務省

Contents

住宅は高額な割には「心の豊かさ」という魅力がない

財布のシェア争いは気づかぬうちに「多様化したお客様」へ対応し、個々の「心の豊かさ」という付加価値をどれだけ提供できるのかという競争です。住宅は、リテール商品群の中では圧倒的に高額な商品です。その割には、お客様の「実現したいコト」への対応力が弱く、ハード訴求が中心というモノ不足社会への対応のような「旧来型商品」の特徴で訴求しているため苦戦しています。
最近20年間を考えても、住宅の様々な性能は向上しているにもかかわらず、財布のシェアは拡大していません。お客様の視点からは魅力がないのです。

オーダーメイド商品の割にはお客様のコトをお聴きしていないのが課題

自社のハード特長を説明したがる住宅営業と、話しを聴いて欲しいお客様の想いとが、嚙み合っていないということです。
注文住宅というオーダーメイドを標榜しているなら、先ず話しをお聴きすることから始めましょう。

●要求の背景にある理由を共有化します

お客様は現状の生活の不満点は様々おっしゃられますし、「この部屋をこのくらいの広さにしたい」という「要求」は出ますが、「その部屋で何をしたいからという理由」がほとんどの場合においてお客様からは出て来ません。従って「不満点の解消」を図り、さらに「要求通りのサイズに部屋を拡大しました」というお客様のご要望と要求への回答になってしまいます。「現状の生活のマイナス要素である不満を解消して、住宅というハコを要求サイズでつくります」では、心豊かな暮らしは実現不能ということを宣言してしまっているようなものです。
本来は、「暮らしのプラス面である、こういうコトを実現したいからこれくらいの部屋サイズが欲しい」という要求の背景にある原因/理由をお客様と共有する必要があります。そのレベルのコミュニケーション力がオーダーメイド産業の住宅営業には必ず必要です。

●モデル住宅の住人の「実現したいコト」がコミュニケーションの起点

モデル住宅もしくは完成住まいの現場見学会の「この住宅の住人はこういうことが実現したかったからこういう部屋になりました」という具体的な「実現したいコト」を「こうやって対応してカタチにしました」という「触発」のストーリーがコミュニケ―ションのスタートです。
「あなたなら何をなさりたいですか」という誘いかけが、お客様の「実現したいコト」を引き出します。

「暮らしの『プラス面』の実現したいコト」が心豊かな暮らし要素

現状の生活の不平不満というマイナス面への対策はもちろん必要ですが、「せっかく新しい家を建てるならこれだけは実現したいというコトはありませんか」とい投げかけは必ず必要です。
この暮らしのプラス面で「実現したいコト」を、どれだけお客様と共有できるかで「心豊かな暮らし」の達成度が変わってきます。

触発なしにお客様は「実現したいコト」には気づかない

「気づき共感営業」を上手く活用して新しい住まいで「実現したいコト」に気づいていただきます。個々のご家族に適した「心豊かな暮らしの実現」です。「住宅という商品を性能が良く生活利便性の高いハコというモノとして販売」している限りこれは実現できません。
住宅事業が全業種間との財布のシェア争いに勝って行くためには、「気づき共感営業」で個々のお客様が見えていなかった心豊かな暮らしに気づき共感していただく必要があります。

参考記事「住宅の価格アップ時代には『気づき共感営業』が強力な武器になる」

●魅力的な付加価値は一律ではなく個々のお客様で異なる

暮らし方の多様化は気づかぬうちに進んでいます。従って住まいづくりは従来のような4~5LDKで収まるというモノではなくなってしまっています。各部屋の使い方や過ごし方のスタイルもまちまちですので、個々のお客様と向き合う必要があります。
どのお客様も画一的な価値観であった時代のように、一律の似たような回答で合格ラインに到達できるという発想では財布のシェア争いから脱落してしまいます。

まとめ

「良いものをより安く」というのは、全てのジャンルの商品メーカーの使命ですが、「良いもの」という定義が「個々のお客様の心豊かな暮らし」となった瞬間に「モノからコトへ」という視点、「お客様の実現したいコト」は何かを掴む必要が出て来ました。この部分の強化が住宅業界の最大の課題です。

《執筆者》
株式会社ハウジングラボ
代表取締役社長 松尾俊朗
一級建築士

関連記事

住宅の価格アップ時代には「気づき共感営業」が強力な武器になる

住宅業界は30年振りの価格アップ時代に突入しました。「超低金利デフレ時代」が続きましたが、外的要因によって資源/資材のインフレへと急速に転じています。住宅価格アップ時代に適応させ、住宅事業を発展させる方策がこの春からは必 […]

「モノからコトへ」の住宅事業の新スタイル

景気は回復基調にありますが、目の前の集客が少ないとか、建設資材は上がり続けるとか、明暗が混ざった昨今の市況環境です。もう少し全体を俯瞰して考えてみると、自動車産業と同じように住宅産業も100年に一度の大変革期に差し掛かっ […]

「暮らし視点の住宅営業」は、大きな他社差別化になる!

今後の住宅市場は外形として捉えれば建築適齢期の人口減が進み、一方で空き家率は13.6%もあるという市場です。需要漸減化の「モノ」が余っている市場で「対価」を支払うだけの「魅力ある住宅」をお届けできるのかという課題が、住宅 […]

新着記事

【集客のコツ】失敗しない集客のポイントと改善方法

集客は、受注獲得のための重要なテーマのひとつです。数多くの集客方法があり、「効果が上がる集客方法がわからない」「他にもっと効果的な集客方法があるのではないか」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。今回は、集客を成功 […]

お金の不安を払拭できるかが住宅営業の分かれ道

建築適齢期である20~40代のお客様は好景気を知らない世代であり、給与所得が物価高に追い付いていないという先行き不安もあり、老後の「お金」に対して堅実傾向があります。20代から「今から備えたい」という意識を持たれている方 […]

【現代人は疲れている!】疲れを解消する「家」は、お客様に響く!

現代人は、仕事、家事、人間関係など、現代社会を反映するような様々な要因で「疲れ」を感じています。今回は、疲労回復のために必要な「家」、リフレッシュして「幸せを感じる家」のあり方について考えてみます。 Contents 現 […]

受注できない時の住宅営業の課題と対応策

受注できないのは、「集客数が少ないから」なのでしょうか。住宅展示場協議会と住宅生産振興財団によると、全国の9月時点での住宅展示場の来場者組数は前年比3.2%減とのことで、多少の増減はあるにせよ、以前のような集客数は見込め […]

展示場・見学会の集客は、「付加価値」を意識する

集客数が減少している状況で受注を獲得するためには、高い興味関心を持っていただいた状態でご来場いただく「集客」が重要です。様々な方法で集客を試みているけれど、なかなか成果が出ない場合、自分よがりな発信になっているかもしれま […]

住宅営業の初回接客品質向上のポイント

住宅展示場や完成住まいの見学会などでの初回接客は、受注成否の80%に影響すると言われるほど重要です。住宅は、高額商品なため購入するかどうかの決定には慎重になるのが当然なうえ、物価上昇率に給与所得の上昇率が追いついていない […]