住宅価格上昇局面では設計主旨を変えずに縮小プラン作成
2022/04/11

住宅建築資材が高騰し続けている現状のような状況下にあっては、まず長引く商談、設計変更の繰り返しをしていては、その間に当初見積から価格が上昇し、価格ストライクゾーンから外れてしまします。それくらい価格上昇には過敏な昨今の状況です。従来45坪で受注できていたお客様が、同じ価格では36坪でまとめなければならなくなっています。価格合わせの面積調整のためにお客様が「実現したいコト」を次々に削除してしまっては、価格合わせは出来ても受注できるプラン内容ではなくなってしまったという場面が多発しています。
住宅設計には同一コンセプトでサイズダウンしたプランが求められています。
Contents
「暮らしの重心」を中心に再設計

単純な縮小コピーで事足りればそれでよいのですが、住宅設計というのはそう単純に事が運べないのはご承知の通りです。「設計主旨を変えずに縮小プラン作成」の考え方で重要なのは、先ず「暮らしの重心」の鮮明化です。
ご家族とその構成メンバーであるお一人お一人の「これだけは新しい住いで実現したいコト」という暮らしの重心をしっかりと再度共有化することができれば、「設計主旨を変えることなく、縮小プランを作成する」ことは出来たようなものです。
「心豊かになるコト、楽しいコト」が「暮らしの重心」になる要素

「収納量が足りないから収納がたっぷり欲しい」という要望が奥様からあったとしても、「暮らしの重心」にはなり得ない項目です。現状の生活面での「マイナス要素」は解消して当たり前ですが、「心が豊かになる楽しいコト」ではありません。確かに前提条件ではありますが、それをクリアしたとしても「プラス要素」としての加点ではありません。特に新築後の暮らしで心豊かに暮らすために「住宅を新築するという投資甲斐のある要素」でもありません。
このように「暮らしの重心」から余計なモノをそぎ落として絞り込んで、これを実現すれば必ず受注できると確信が持てる「プラス要素」を鮮明にします。これを軸にプランを再構築することでコンセプトを変えずに縮小プランは実現できます。
●暮らしやすさの要素はコンパクトに設計

動線は「短い動線」「回遊性動線」「一筆描き動線」が暮らしやすさのポイントですが、回遊性動線は無駄な面積が生じやすいので「短い動線」に置き換えてコンパクトな設計を心がけます。
「暮らしやすさの要素はコンパクトにまとめる」という決心が面積を圧縮する工夫を生みます。諦めない設計でもあります。
記事「諦めない住宅設計の姿勢が求められている」
記事「住宅設計のポイントは「コンパクトに広く」
●廊下面積はゼロを目標に設計

床面積を「実現したいコト」に有効に使うために、「廊下」面積は極力「ゼロ」を目指します。中々難しいチャレンジではありますが、「諦めない設計」が知恵を生み出します。収納内部を「ウォークスルー」する動線で「廊下に見えない廊下にする」という工夫もあります。
このような「コンセプトを変えずに縮小プラン」を創ること自体が住宅設計スキルを高める実戦訓練になります。
どうしても面積オーバーとなる場合

面積オーバー(ということは予算オーバー)でも受注できる条件は次の2つの条件をクリアする場合のみです。
1、お客様の予算ではなく最大の資金調達金額(Max資金計画)をお客様と共有化できていること。
2、面積と予算のオーバー部分は、お客様が「これはぜひ実現したい」という「魅力的な付加価値」の提供であること。
の2つです。
お客様とのMax資金計画の共有化には、住宅営業の協力を得る必要があります。住宅営業にわかるようにじっくりと話しをして考え方のベクトルを合わせます。先ず、Max資金計画をお客様、住宅営業、住宅設計で共有化しましょう。
次は「是非とも実現したいコト」とお客様が気づき、共感して下さる、お客様にとって「魅力的な付加価値」とは何かを再度「暮らしの重心」に立ち返って考えてみましょう。
予算枠の突破と「魅力的な付加価値」で他社差別化プランを

価格上昇時の受注ということを考えると、先ず従前の価格で実現できたプランを、コンセプトを変えることなく20%程度縮小することが求められます。それでやっと従来の価格での受注ということです。本来なら価格を少しでもアップしないことには十分な利益を残すことはできません。そういう意味でも「予算枠の突破」とそれを実現するお客様にとっての「魅力的な付加価値」を提示することは、企業の存続と成長のためにも必要です。
一般にお客様の「暮らしの重心」として取り上げた「暮らしのコト」を更に推し進める方向に「魅力的な付加価値」は存在します。お客様との対話の中で、常にお客様にとって「魅力的な付加価値」は何かと考えるようにしてください。Max資金計画内での実現が、あくまでも住宅設計に与えられた枠組みです。
多様化したお客様の暮らしがチャンスを生む

「一般的なファミリー層」に見えても、ふたを開けてみるとかなり個性的なご家族が最近は増加しています。
夫婦関係、親子関係、兄弟姉妹関係など詳しくお客様のご家族を理解し始めると、「個性的で多様化した考え方」が見えてきます。この多様化の中にお客様にとって「魅力的な付加価値」が存在するはずです。
まとめ
住宅価格上昇局面での受注に関して、住宅設計者の果たす役割は大きなものがあります。お客様の要求するコンセプトを変えることなく面積調整するなどの役割に加えて、さらに新たなお客様にとって魅力的な付加価値を提示するなどが期待されています。時には住宅営業をもリードして受注に向かう必要もあります。
住宅設計に期待するところは、住宅設計が思っている以上に大きいということです。
《執筆者》
株式会社ハウジングラボ
代表取締役社長 松尾俊朗
一級建築士