住まいづくりのコンダクターが必要な時代

自動車業界は100年に一度の変革期と騒がれています。
同じように、住宅業界も100年に一度の変革期を「無自覚」に迎えています。

1922年 (大正11)3月10日から7月20日まで、東京府主催の「平和記念東京博覧会」が、上野公園を中心に開催されてから今年でちょうど100年です。
当時は靴のまま見学する住宅が多く、西洋風の住宅に戸惑いながらの和洋折衷住宅への模索が始まった原点です。

Contents

暮らしが多様化した時代の住まいづくり

確かに選べる住宅部材は多くなりました。
住宅性能も大きく向上しました。
最も多様化したのはお客様の暮らしです。
この多様化したという見方は、「俯瞰して見れば」という視点が前提条件です。
個々の生活者は、あくまでも自分の生活が「普通」であって、当然「多様化した」という自覚はありません。

住宅供給側が新しい暮らしを提供してきたのも事実

1950年代は、地方は純和風住宅の暮らしでしたから、都会に出て2DKに住めば、従来考えもしなかった新しい暮らしが手に入りました。
ちゃぶ台はダイニングテーブルになり、椅子に腰かけて食事をしてと、生活様式を住宅供給側がリードしてきました。
高度経済成長時代が終わっても住宅の2DKを基本的とするスタイルは変わらず、暮らしが多様化しても4LDKで対応しています。
確かにこれでも暮らせないことはありません。

住まい手側と住宅供給側が共に「無自覚」に「100年に一度の変革期」を迎えてしまったということです。
住宅供給側が「新しい暮らしをリード」してきたのも事実ですが、もうそいう時代は終わりました。

●住まいづくりのコンダクターは誰?

「モノからコトへ」の時代というのは、「こういうコトがしたいから」が先行して「それが実現できるモノ」を購入するという順番が正しいということになります。

「お客様の実現したいコト」を理解して、お客様と共有する役割は誰が担うのでしょうか。

そもそも「こういうコトがしたい」と「自覚されている」お客様はごく稀です。
一部の住宅営業担当者や住宅設計担当者で、これに近いことができる人はいますが、ごく一部に限られています。

●本来はユーザーに主導権がある住宅市場

ネットが発達し、SNSも全盛の世の中ですから、住まいづくりも本来はユーザーに主導権があるのが市場の常識です。
単体商品ならユーザーがネットで様々情報を得て検討した上でご自身が選択することができます。
これとは異なり、住宅はリテール商品としては最高額で商品を構成する部品点数も桁違いに多く、ユーザーが単独で判断して選択することは難しいジャンルです。
ユーザーに主導権はあるが自身が実現したい暮らしが見えていないため、「どちらにしましょうか?」と問われると「こちら」と根拠が希薄なまま答えて失敗ということはよく耳にする話です。

住まいづくりのコンダクターという新たな職種

「暮らしコーディネーター」とでも呼ぶべきかもしれませんが、本来は「お客様と対話し価値観を理解し実現したい暮らし」という「コト」を理解して住宅営業、住宅設計、IC(インテリアコーディネーター)へ、「モノ」という住宅建設について指示を出すという新たな職種が求められています。

欧米ではインテリアデザイナーという職種がこれに近い職種になり、ユーザーとのコミュニケーションはインテリアデザイナーに集約されています。
ただし高級住宅に限られています。

●住まいづくりフォーメーションの新しいカタチ

未来の姿としては、「暮らしコーディネーター」が一元的にお客様と向き合って価値観を理解して、住宅づくり情報を住宅営業担当者、住宅設計担当者、IC(インテリアコーディネーター)に指示を出す、というフォーメーションになると思います。

現実的な過渡期として、今後は多くなると思われるネット上でのお客様からのコンタクトで、オンラインによる住まいづくり相談から入るか、総合住宅展示場はじめ、モデル住宅/完成住まいの現場見学会へ集客し、住宅営業担当者が「住宅というモノ」が見える場で初回面談に入るところから住まいづくりはスタートします。

いずれにしても住宅営業担当者は、「気づき共感営業」「暮らし触発営業」でお客様の暮らしについて気づいていただく通常のアプローチを進め、お客様の反応の難易度に応じて「暮らしコーディネーター」の応援を依頼するという方式です。
暮らしコーディネーターが入ってからの動きは、最初から暮らしコーディネーターが入る最終形のフォーメーションと同じです。

●「コト対応」と「モノ対応」の専門分化

暮らしで実現したい「コト」への対応は、「暮らしコーディネーター」と補助役の「住宅営業」の仕事領域です。
住宅設計担当者とIC(インテリアコーディネーター)は、暮らしコーディネーターの指示に基づいて「モノという住宅」を実現するための図面を書き、住宅設備部材の「モノ選定」を行う専門職です。

まとめ

「気付かぬうちに静かに始まっている」100年に一度の住宅業界の変革期は、「個の暮らし方を理解して対応すること」がテーマです。
従来にはない職種の創造も含めて先手を打って、フォーメーションを組み立てる時期に来ていると思います。

《執筆者》
株式会社ハウジングラボ
代表取締役 松尾俊朗
一級建築士

関連記事

「モノからコトへ」の住宅事業の新スタイル

景気は回復基調にありますが、目の前の集客が少ないとか、建設資材は上がり続けるとか、明暗が混ざった昨今の市況環境です。もう少し全体を俯瞰して考えてみると、自動車産業と同じように住宅産業も100年に一度の大変革期に差し掛かっ […]

受注につながる住宅展示場や完成住まいの見学会への集客のポイント

総合住宅展示場の集客力に陰りが出始めてから既に何年も経ちます。完成住まいの現場見学会を開催しても新規来場客ゼロということも生じるようになりました。「集客を多く集める」という視点だけで集客企画を考えることは難しい段階に入っ […]

「暮らし視点の住宅営業」は、大きな他社差別化になる!

今後の住宅市場は外形として捉えれば建築適齢期の人口減が進み、一方で空き家率は13.6%もあるという市場です。需要漸減化の「モノ」が余っている市場で「対価」を支払うだけの「魅力ある住宅」をお届けできるのかという課題が、住宅 […]

新着記事

【競合対策の基本①】他社の悪口はタブー

住宅営業を進める上で必ずと言っていいほど存在する競合他社への対策は、受注を獲得するためには重要な対策のひとつですが、間違った対策を打つと自分(自社)の信頼を失ってしまう危険があります。今回は、競合他社を賞賛しつつ差別化を […]

競合他社とは異なる差別化戦略で受注する

「モノ」としての住宅が売れていた時代には、住宅の構造・性能などのハード面の優位性を訴求することが受注に有効でした。実際に、持ち家着工数は1973年をピークに多少の上下はあっても下降傾向です。さらに、1978~1982年を […]

【営業会議の進め方】受注につなげる作戦会議の場が営業会議

営業活動の進捗報告、目標達成見込報告、その報告をうけて上司が住宅営業担当者に指導とはかけ離れたしっ責が延々と続くなど、営業会議より営業活動に時間を使いたいと思うような営業会議の経験がある方が多いのではないでしょうか。今回 […]

受注まで6週間! 消費者心理を理解して購買意欲を刺激する住宅営業とは

土地探しも含め初回面談から受注獲得まで数ヶ月~数年を要する、というのが注文住宅業界のが常識ですが、消費者心理を理解し、お客様の購買意欲を刺激するテンポ良い営業で6週間で受注を獲得する住宅営業について考えてみます。 Con […]

人材育成の大切なポイント

人材育成は、住宅会社にとって重要な課題のひとつです。新人(中途採用・新卒採用)だけでなく、今現在所属している社員の育成も、今後の住宅会社の発展に大きく影響します。その中でも新人の営業人材育成について考えてみます。 Con […]

売れない住宅営業と売れる住宅営業の違い。売れる住宅営業になるために必要なこと。

自社住宅商品の性能/構造や設備/仕様など商品知識をしっかり身につけ、お客様にも一生懸命説明しているのに、なかなか受注に繋がらない住宅営業の特徴とその解決策を考えてみます。 Contents 売れない住宅営業の特徴 頑張っ […]