商品開発を兼ねるモデル住宅の設計は近未来を見せる

常設モデル住宅の設計に商品開発の要素を組み入れる場合は、下記の2点の要素の両方を兼ねた企画設計力が求められます。

1、住宅営業のビジネスステージの企画設計
2、商品開発を兼ねる場合は商品企画設計

ここでは商品開発を兼ねた場合の商品企画設計の視点で、今後のモデル住宅の設計について考えます。

Contents

商品開発とは「目を引くデザインと変わったプラン」作成なのか

2000年代に入る前はヨーロッパに行くと南欧のスペインやプロバンス、北欧のスウェーデン、アメリカに行けばニューヨークやシカゴ、ロサンゼルスなどでデザインとプランのアイデアは豊富に手に入りました。
そのアイデアを和洋折衷の4LDKプランを下敷きにまとめれば、新商品の一丁上がりでした。

そんなイージーな、ちょっと新鮮味のある「目を引くデザイン」や初めて見る「ちょっと変わったプラン」というのは、住宅という「モノ」のカタチを作っていただけだったように思います。
これは筆者の個人的反省でもあります。

住宅という「モノ」のカタチは何によって決まるのか、という根源的な「住宅という商品開発」を考える時代に入っています。

「モノ」から「コト」を重視する商品開発へ

モデル住宅で商品開発を兼ねた設計をする場合に重要になる前提条件は、「仮想家族の暮らし方の設定」です。
標準世帯という4人家族はもはや全世帯の4.6%で少数派です。
普通の家族がいなくなった特殊解だらけの多様化した家族からどういう想定家族を設定するのか、これがこれからの商品開発の起点です。
想定家族設定には地域特性という要素も大きく絡んでいると思います。

新しい住まいでこういう「コト」がしたいから、こういう住宅という「モノ」になりました、を考える前提条件が想定家族です。

●家族が何となくいつも一緒の空間に

多様化した家族の特性は、同じ場所にいて別々の「コト」をしていることが抵抗感なく成立している家族です。
核家族なのにそれぞれの個室に入らずLDKにいつも家族がいるが、その「居るというスタイル」も個人個人でバラバラ。
床に寝転がっていたり、ソファーで寝そべっていたり、スマホ片手にTVは何となくついているが、床に仰向けになど、まとまりはありません。
大きく捉えれば、全員ゴロゴロしているということなら、いっそ大きな抱き枕位のクッションを一人3個程度用意して、家具は何も置かないという「12個の巨大抱き枕と広い床」。
床暖とどこでも携帯電話の電源が充電できればそれでよいという結論。
「素直に考えると近未来の家族が集まる空間はこうなりますが、どうでしょうか」の提示です。

●家族の普通の休日をイベント化

いつも同じ空間でゴロゴロしている家族は基本仲良しのはず。「普通の休日のイベント」で触発します。
「コト」から「モノ」への具体化は「こんなコト」は案外楽しそうの触発が商品開発のポイントです。
何をしたいかが分からないまま放置すると、家族は軟体動物化してゴロゴロ。
この空間も必要ですが「こんなことも楽しそうだね」という触発を「普通の休日に練りこみます」。

「いい暮らしを手に入れる」という新商品開発

毎週週末に屋根付きの外部空間でブランチをとる楽しさ。
家族みんなで作ってみんなで食べる楽しさ。

それを演出するこじゃれた北欧のテラステーブルとイス、食器もカトラリーも北欧デザインでという暮らしアップの演出など、「普通のちょっといい休日」を具体的に組み立てて触発します。
軟体動物家族が生き生きしてきます。

「楽しい暮らし」、「いい暮らし」という「コト」がみえる住宅という「モノ」を提示して触発します。

●「暮らしの触発」で「近未来の自身の家を想像」できる

「小さな幸せが手に入る具体的な姿が見える」ことが、モデル住宅と商品開発を兼ねた場合の企画設計のポイントです。

この新商品の住宅という「モノ」は、どういう根拠で企画され設計されたのかという、こういう「コト」がしたかったからが見えると、来場されたお客様は「自分ならどんな『コト』がしたいのか」と考えて、この暮らしの触発を与えてくれた住宅会社で住まいづくりを進めるという仕掛けの網にかかります。

単純な商品開発ではなく、多様化した住まいづくりのしくみを持った「新商品システム」として組み立てたモデル住宅を提示することになります。

●ビジネスステージづくりと商品開発の融合

新商品として作られたモデル住宅へ来場されたお客様が、「日常のゴロゴロ生活への回答」と「普通の休日の小さな幸せ」に触発されて「自分ならどうする?」を考えていただければ、営業がモデル住宅をビジネスステージとして有効に使えたということになり、「この暮らしは一体何?」という触発が効果を発揮できたなら、近未来の暮らしを見せるモデル住宅がうまく機能したということになります。

まとめ

新商品開発は「モデル住宅の開発」というテーマから、現状の暮らしをベースにちょっと先の暮らしはどうなるのかという「暮らしの開発」という触発力を持った暮らしがテーマへ進化します。
設備部材を選択するという住宅というハコの「モノ」選びのインテリアコーディネートではなく、「コト」を実現するための家具や食器、さらには生活用品という「暮らしコーディネート」視点の住まいづくりということになり、素直に考えると新商品開発は暮らしのコーディネートシステム開発ということになりそうです。

《執筆者》
株式会社ハウジングラボ
代表取締役社長 松尾俊朗
一級建築士

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