「不満の解消」と「満足の向上」は似て非なるもの

日本は少子高齢化が進み、人口は急激に減少しています。つまり、住宅建築適齢期の人口も減少しているということです。さらに、空き家率の過去最高の更新や持ち家・賃貸住宅(ともに戸建て住宅・マンション)、リノベーション・リフォームもあり、お客様にとっては住居の選択肢が多数あります。このような環境下で自社で注文住宅を建てていただくために取り組むべきことを考えてみます。

お客様の価値基準はどこにあるのか

内閣府 国民生活に関する世論調査

上図は「モノの豊かさ」と「心の豊かさ」のどちらを重視するかという内閣府の国民生活に関する世論調査の結果です。1978年(昭和53年)から1981年(昭和56年)までは「モノの豊かさ」と「心の豊かさ」が上下入れ替わりが続いていますが、1982年(昭和57年)以降は「心の豊かさ」が増加し続けています。つまりは、「モノ」より「コト」を重視するということです。これを注文住宅業界に当てはめて考えてみると、「手に入れる住宅によってどんな心豊かな暮らし(コト)ができるか」が重要視されており、「数千万円というお金を払ってでも手に入れたい」ほどの魅力を感じていただかなければ、「モノとしての住宅」が過剰に存在する住宅市場では「家を建てる」ことを選んでいただけないということになります。

暮らしの不満解消とは

お客様は、現状の住まいで暮らした結果、「もっと収納量が欲しい」「冬は足元が冷える」「部屋数を増やしたい」などのご希望をお持ちです。これは不満というマイナス要素の改善のご要望です。日本のローコスト住宅から中高級住宅のほとんどが、「耐震・防火・断熱気密・耐久性・などの安全・安心・快適」や「部屋数・収納・動線などの生活利便性」が備わっているため、「他の会社でも改善するなら安い方が良い」となり、数ある住宅会社・工務店の中から自社住宅を選んでいただくのはかなり難しいと言えます。

暮らしの満足度の向上とは

上述したマイナス要素の改善と生活利便性が向上した住宅でどう暮らしたら心が豊かになるか、というのが暮らしの満足度の向上です。心が豊かになるかどうかはお客様のライフスタイルという趣味・趣向が大きく影響しますので、それぞれのお客様の暮らしの願望を掴み、これが実現できることをご理解いただくと魅力溢れる住宅として認識していただけます。

住宅営業が、お客様の暮らしの満足度を上げるお手伝いをする

住宅営業担当者が一番知りたい「ご予算」と「土地の有無」はもちろん重要ですが、お客様の暮らしの満足度を上げて自社住宅を選んでいただくためには、「お客様が実現したい暮らし」を知る必要があります。

「どんな暮らしがしたいですか?」は間違い

住宅営業担当者は、お客様が実現したい暮らしを知る必要がありますが、だからといって「どんな暮らしがしたいですか?」という質問をしても明確に答えてくださるお客様はほとんどいらっしゃいません。住宅展示場や完成住まいの見学会などでご案内中に、先ずお客様に「ご自身の暮らしに気づいていただくこと」、そしてその気づかれた暮らしに住宅営業担当者が共感し「それならこうしましょうか」などとご一緒に考えることから始めます。

日常の小さな幸せにフォーカスする

「心豊かな暮らし」だからといって「防音ルームを作って楽器演奏」などの大きな仕掛けをお客様から引き出す必要はありません。毎日の暮らしの中の1シーンを心豊かにすることが出来るだけでも良いのです。日常だからゆえに、お客様が気づかれていないこともあるでしょう。「ご自身がこの住宅展示場に住むとして」と意識していただいて住宅展示場で疑似体感体験していただき、「ここでこういうことをしてみたい」などの「実現したい暮らし」に気づいていただくことがポイントです。

例えば、対面キッチンの住宅展示場をご案内しているお客様に、お料理は一人で作るのか、ご夫婦で作るのか、子どもと作るのかをお聴きし、「ご夫婦で料理を作る」「お子様と一緒に」など複数人で調理されている場合は、対面キッチンよりもアイランド型キッチンの方がお互いの様子を見ながら会話を楽しんで調理することもできることをお伝えすると、「楽しいコミュニケーションの場としてのキッチン」に気づいていただき、新しい住まいでのキッチンへの期待が高まります。さらに、「コトからモノへ」で住宅というモノの内容を決めて行くことで自然な流れで住宅受注へと向かうことが可能になります。

「実現したい暮らし」の後に住宅というモノの説明が効果大

ほとんどの住宅営業担当者は自社住宅商品の特長として、構造・工法と性能、仕様設備など「モノ」としての住宅の説明をされます。この際のポイントは、お客様がご自身の「実現したい暮らし」に気づいた後に「モノ」の説明をした方が、心からの納得を得た理解につながります。
例えば、前述のアイランド型キッチンの場合、「対面型のキッチンよりも広さを要しますが、自社住宅の構造・工法・断熱・気密などの性能があれば、足元が冷えることもなく、耐震等級もクリアしているため安心安全」という説明も伝わります。

まとめ

不満というマイナス要素や生活利便性の改善は、どこの住宅会社・工務店も行っており、この部分の説明だけでは自社で住宅を建てていただくことは難しい状況です。住宅性能や生活利便性が良くなった住宅で、どんな心豊かになる暮らしができるのかといったプラス要素の情報提供が受注につながります。不満の解消から暮らしの満足度の向上へ一歩踏み出すことをお勧めします。

《執筆者》
株式会社ハウジングラボ
営業企画課長 眞田 智子

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