土地さえ決まれば住宅を受注できる!?

住宅営業からよく聴く話です。
超低金利のデフレが長期に亘り、さらにローコスト住宅全盛期と相まって、「アパート代で土地付き一戸建てが買える」というのは地方では当たり前のキャッチフレーズになりました。
都市部ではコロナ禍で同じ金額なら少し郊外へ行けば、マンションの倍の広さの住宅が手に入りますから、土地需要は旺盛です。
少子化ですが、1人のお子様に掛ける教育費が上昇を続けていることを考えても、「この学区は譲れない」というお客様も増加中です。
地方でも都市部でも、要するに人気のあるエリアでは土地不足が常態化しています。
それゆえ「土地さえ決まれば」という住宅営業の気持ちもわかりますが、本当にそうなのでしょうか。

Contents

住宅か土地か「軸足をどちらに置く会社」なのか

先ず、自社のスタンスとして土地販売が軸足なら「土地さえ仕入れられたら」「土地情報をいち早く入手できれば」は正解です。
事実、この数年「土地販売が軸足の住宅会社」は毎年過去最高の受注を記録しています。
言い方は悪いのですが、住宅は2の次でも事業としては成功しています。

住宅に軸足を置く会社はそうは行きません。
こうした住宅会社の場合、市場での評価は住宅でしょうから、土地の値段に合わせて住宅をいじめるというわけには行かない、という事情があります。
しかし、これらの話は、根っこの部分で置き去りになっている大切な部分があります。

住まいを楽しみ人生を楽しむ暮らしの実現

住いづくりで、一体お客様は何を手に入れたいのかということです。
土地を手に入れたいのか、住宅を手に入れたいのか、突き詰めたらどちらでもないと思います。
「住まいを楽しみ人生を楽しむ暮らしの実現」を手に入れることが目的のはずです。


土地に軸足を置く会社は、この発想には一般的に遠いと言わざるを得ません。
この住まいづくりの本質的な目的の実現は、住宅に軸足を置く会社の使命です。
では具体的どうすればよいのか。

●お客様をすべて受け容れる

「土地、土地、土地」と頭の中はすべて土地でいっぱいのお客様に、「住まいを楽しみ人生を楽しむ暮らしの実現」は絵空事に聞こえます。
先ずは、お客様のご希望の土地について、可能な限りその根拠も含めて詳しくお聴きしていきます。
学校区とか土地建物でこの予算だとか、あの不動産屋さんにもこの住宅会社にも探してもらったが気に入った土地はなかったとか、愚痴に近い話も全て詳しくお客様の側に立った視点で想いとご要望をお聴きします。
「結構チャレンジングな土地探しですが、可能な限りの土地情報を、空家なども含めて調べますので1週間お時間をいただけますか」。その際に、この辺りまではOKというエリアの最大許容範囲もご指定いただき理由もお聴きします。

●何を手に入れたいのかの合意

初回面談は、まず徹底的にお客様の土地に関するご要望を受容れます。
受け容れますが言いなりにはならず、お客様にとって最良の住まいづくりを提示します。


初回面談と1週間後と、さらにその翌週の3回に分けて徐々にお客様ご自身の住まいづくりの目的を共有化していきます。
もちろん、この中には土地情報も住宅のハード情報も含みます。
先ず、初回面談で「新しい住いで実現したいコト」にご自身が少し気づいていただくところから始めて、あと2回で実現したい暮らしの重心を共有化します。

正しい情報提供が住宅営業の仕事

初回面談から1週間後に、土地探しの対象エリアの最大許容範囲内の地図上に建築可能な土地をプロットしてご提示します。
この作業の途中報告を週中の訪問時に行います。
いくつかを絞り込んで面積、地形、方位等の基礎情報に加えて、暮らし視点で夜間の周辺道路の明るさ、近隣の住人の層、降雨時の周辺の土地や道路の排水、眺望、採光、夏と冬の風の道等、さらに建築視点で資材の搬入経路、段差の解消の有無など土地の素養の良し悪しをお客様の暮らし視点と併せて検討します。
一見変形土地で地形が悪く見えても、お客様の暮らし方なら奥に子お子様が道路へ飛び出す心配のないプライベートガーデンが取れるなどの「お客様の暮らしを中心」視点で候補を検討中とします。
2度目のモデル住宅案内で、ご自身の実現したい暮らしをより具体化します。
この実現したい暮らしの方向とその暮らしが実現できそうな土地との組み合わせをMax資金計画内で検討します。

お客様を受容れ、住まいづくりの目的に徐々に気づいていただき、新しい住いで実現したいコトを共有化し、実現可能な土地情報などお客様がご判断できるレベルで情報提供を行います。
ご判断されるのはお客様です。
素人のお客様が間違のいないご判断をしていただけるように、嚙み砕いて正しい情報提供をすることが住宅営業の仕事です。

●無理な誘導策は取らない

お客様の意図を十分にお聴きせず、無茶なことを言う客扱いで、「この資金で当社の住宅を建てるなら買えるのはこの土地しかありませんよ」というような、会社視点で結論を短絡的に提示するというのでは、お客様に対して失礼でもありますが、そっぽを向かれてしまいます。
「無茶を言う客だ」と言って切り捨てていては、新規客が減少し続ける市場では、追える客が消失してしまいます。
無理やりに誘導するのではなく、住まいづくりの目的への気づきをいただきながら情報提供をして、お客様に正しいご判断をしていただきます。

●現実的な着地点へ

お客様は3回の面談とモデル住宅でのご自身が暮らすとしての視点で体感体験を積み重ねる一方、住宅営業は誠心誠意の土地探しを実行しますが、最終段階では「この条件は絶対」とおっしゃっていたことも冷静に判断されるようになります。
例えば、「学区絶対」という条件も、ご両親にお孫さんお家庭教師代を3年間負担していただく交渉など、様々な選択肢をご提示する中で、最終着地手点へ向かうようにお客様をサポートします。

まとめ

「土地さえあれば受注できる」と似たような話で「価格さえ合えば受注できる」という事も良く耳にします。
住宅営業自身がこういう発言をすること自体、自身の存在価値を否定している発言です。
何のために住宅営業は存在しているのか。
お客様の「住まいを楽しみ人生を楽しむ暮らしの実現」のために働き、お客様にとって魅力ある住宅をご提供するためにはどうすればよいのかを「考えること」が住宅営業の仕事であり、受注という結果を出すためという営業の本分と一致もします。
お客様からの一見無茶な要求でも、本気で受容れて、よくお話しをお聴きしていけば、ほとんどのお客様は受注可能です。
これからは、こういうお客様とも本気で向き合ってみてください。
きっと素直なお客様に転換できると思います。

《執筆者》
株式会社ハウジングラボ
代表取締役社長 松尾俊朗
一級建築士

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