住宅事業に携わる者のプライドを持つ

建築資材が高騰したからと言って値上を嫌がる住宅営業、「お客様が言ったから」こういうプランにしましたと言って「どう考えても住みづらいプラン」をそのまま工事へ回す住宅設計、何も疑問を持たずにイージーな住宅事業運営をしているのではないかなと首をかしげたくなります。
住宅事業に携わる者のプライドは何処へ行ったのでしょう。

最高額のリテール商品が住宅

どう考えても日本においては一般庶民が購入する商品で最高額商品は住宅です。
この事業に携わる経営者、幹部社員、管理職、住宅営業、住宅設計、IC(インテリアコーディネーター)、工事等の人たちは、全ての業界の頂点に立っていると言っても良いでしょう。
一般のお客様が生涯所得の内で群を抜いて最も高額なお金を支払っていただく商品を売っている業種なのですから。
では、住宅業界に携わっている方々の職業モラルとして、その商品金額に比例して高いのでしょうか。
やや心もとない状況かと思います。
もっと住宅業界に携わっているというプライドを持ちましょう。

住宅事業の本質は「暮らしを楽しみ人生を楽しむ住まいの実現」

住宅事業の「本質」を理解して、その達成を「目的」として取り組むことが、プロの住宅事業に携わる者に必要な根っこの考え方です。
「それはそれ」「実務は実務」と、あまりに懸け離れたことになっていないのかということです。
襟を正して春の需要期を前に、今一度仕事の進め方を見つめ直す時期ではないかと思います。
本当にお客様に心から喜んでいただけるような住まいづくりを進めて、その対価をいただいているという喜びを社内で共有しているのでしょうか。
住宅業界では離職率の高い住宅会社が多いというのは、そうなっていないからなのではないでしょうか。
若い優秀な人材は、本物のやりがいを求めています。
住宅事業の本質を共有化することの重要さは、企業の存続と繁栄の基盤です。

●真逆の指示が飛び交う最前線

受注締め日を控えて何棟か受注が足りないという営業所では、「お客様がご納得いただくだけのプロセスを経ていない状態」でも、「とにかくプラン出してOKをもらってこい」という指示が飛び交ったりしています。
そうした多くの企業で「顧客第一主義」を掲げているというのは皮肉を通り過ぎて「喜劇」であり、その指示を受けた若い住宅営業にとっては「悲劇」です。
プライドもなにもあったものではありません。
確かに最後の一押しというのは重要だということもわかりますが、「無茶の一押しで見込客と社員を潰す」様なものです。

●建前ではなく本質で考える

「本音と建て前」ではなく、いついかなる場面でも「本質」で考えて、具体的な行動を起こすことがプロの住宅業界人です。
来場されたお客様には土地があるのか、予算はいくらかを聞いて土地が無ければ土地案内、資金が無ければFPで次アポを取って次はプラン提示でクロージングを掛ける。
こういう「ワンパターン」でお客様に接する住宅営業が多く見受けられますが、こうした住宅営業は、お客様の顔すら見ていないことも多々あるようです。
「お客様にご納得をいただく住まいづくりを」という考えはほとんどありませんから、こういう住宅営業には「偶然の受注」か「紹介受注」しか受注は取れません。
もっと安く安くの大合唱に自ら加わって価格競争に巻き込まれて行き、会社も利益が取れません。
そういう人材にしてしまったのは管理職以上の人たちです。
建前ではなく「お客様の暮らしを中心に考える」という「本質」の思考があれば、違う形で受注への近道が拓けたはずです。

接客したお客様はどんなご夫婦だった?

安定して受注を確実に上げる住宅営業は、お客様のことをよく見ています。

従って、私は接客直後の住宅営業に「どのようなご夫婦?」とよくお聞きします。
「ご主人は理系で頭がよく論理的思考ですが奥様を大事にされており、奥様の趣向は出来るだけ認めようとされています。奥様もそう言うご主人を信頼されていますから、迷うとすぐにお二人で相談されています。身だしなみもお二人ともきちんとされていらっしゃって、料理も手の空いた方が相手を思いやって作っています。ご主人は電子部分の設計が忙しいときは、深夜に帰宅されるのですが、奥様は寝ないで待っているという思いやりの深い二人です。・・・・」と、端的に結構深く長くお客様描写が続き「お客様をよく見ているなあ」と褒めると、「お客様に合ったお住まいをお届けしたいので」というのがその住宅営業の返事です。
住まいづくりの「本質」に迫ろうとする住宅営業の姿勢とお客様と接する際の視点が明確です。

●「お客様の暮らしを中心に考える」が起点

今月の受注は確かに重要ですが、そのために目の前のお客様を潰すような行動をとらせることは問題です。
こうした行動は「自社の都合中心」発想が根底にあります。
お客様は新しいお住いに、今後半世紀以上にも亘って住まわれ、その住宅に数千万円というお金を支払っていただくわけですから、お客様が中心であるべきなのは言うまでもありません。
これを分かっていない住宅事業にかかわる人はいないはずです。
それでも行動が「自社中心になる」のは、プロとしてのプライドを持っていないということです。

●住宅業界の携わる者としてのプライドを持つ

住いづくりの本質に立ち返ることで、プロの自覚とプライドに気づき、注文住宅事業の本流へ戻ることができます。
来場者が少なく焦る気持ちもわかりますが、住宅事業はお客様を幸せにする事業です。
プライドを持ってお客様の価値観と新しい暮らしで実現したいコトに向き合ってください。
必ず短期間で受注に向かいます。

まとめ

建築資材の値上が継続する中、多少景気は良くなってきても来場者は減少しているという現実を見ると、焦る気持ちはわかります。コロナ禍で来場者が減少しても本気のお客様が多く、受注を確保できたこれまでの延長線のようにはいかないという不安もわかります。
だからこそ、改めて「住宅事業の本質とは何か」を再度チームで話し合い、自分達の仕事にプライドを持って取り組んでください。必ず結果はついてきます。

《執筆者》
株式会社ハウジングラボ
代表取締役社長 松尾俊朗
一級建築士

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