家を所有することの目的が変化している

一戸建住宅を持つことそのものが人生の大きな目標になっていた時代から、居住形態の多様化で都市生活を楽しむマンション生活、この暮らしが良いと生涯都心に住み続けるなら分譲マンションで。一方、やがて齢をとったら都心の生活をやめて田舎で自給自足の生活を、という方など、暮らし方の多様化に引きずられて、住宅は所有することすら考えない人たちまでが現れて、まさに住居の多様化は益々多様になって進むでしょう。
改めて家を所有することの目的と未来について考えてみたいと思います。

100年に一度の変革期を迎えた自動車産業を横目で見る

マイカーブームは1966年の日産サニーとトヨタカローラの発売で俄然火がつきました。やがて一家に1台の時代を迎え、さらにそれを超えて、地方では車が無いと生活できないほどの必需品になり、「一人1台」の時代です。いくらローカルエリアの土地が安いとはいえ、敷地面積には限度があり、一家に5台も6台もと言われると住宅設計者は頭を抱えます。それほどに「車は必需品で車社会」を地方では形成しています。一方で、都市部とその近郊においては、「一家に1台か2台程度」ですが、その稼働時間が少なく、買い替えサイクルが長くなってしまい、自動車需要の視点で見ると「好ましくない」とのことです。さらに、モノとしての信頼性が高くなって故障もしないので、益々買い替えサイクルが長くなります。また、車の運転よりスマホで遊んだほうが楽しいというデジタルネイティブ世代の車離れなども重なり、それならと車を購入することからリースやレンタル、サブスクまで登場して来ました。必要な時に必要な車種を、という目的別の使い方もできるようになっているようです。そこへもってきて、地球温暖化の問題解決を目指して内燃機関からEVへという「100年に一度の大変革」が起こっています。これをチャンスと捉えて、非車屋さんのテスラなども市場参入し、これまでの自動車業界の常識を覆しつつあります。

営業の仕方の常識を変えたテスラ

例えば、自動車の営業スタイルも、昭和の時代の足で稼ぐ個別訪問の査定/見積という訪問セールスから大きく進化してきました。お客様をショールームへ呼び込んで試乗してもらって、査定/見積というのが現状の主流の営業です。納車時にはセレモニーがあって、花束をもらって社員総出の納車式。記念の写真ももらって懇切丁寧に取り扱い説明をしてくださいますし、「納車後のお車の調子はいかがですか」と数日経つと電話がかかってきます。至れり尽くせりですが、テスラはスマホで在庫のあるモノを注文すると、運送屋さんのトラックで運ばれてきて、宅配と同じようにサインをするだけ。

取り扱い説明など一切なく、「ドアのロックが外せない」と途方にくれてしまします。「これはスマホと同じだ。取説などないのだ」と気づくと、まあそんなこんなで何とか動かせるようになり、その内、夜間に勝手にアップグレードされてしまって使い方がはたまた分からなくなりますが、これもスマホやパソコンと同じです。デジタルネイティブ世代には、この販売/納車方法の方が慣れているのでしょう。従来の常識は常識ではないようです。

●車好きにとっての車は絶滅危惧種

筆者自邸の55年分のCGという雑誌の圧巻

テスラは排ガスを出さない移動手段であって、「移動することそのものを楽しむ車ではないようです」。車で移動することそのものを楽しむタイプの車は絶滅危惧しとなり、ささやかながら、その保護活動を個人的に行っています。水平対向6気筒の自然吸気エンジンをリアに積んだスポーツカー、V8自然吸気エンジンをフロントミッドシップに積んだクーペスタイルのGT、など運転して楽しい20世紀の遺物的の絶滅危惧種の車たちです。「人馬一体になって運転することの愉しさ」をいくら説明しても「ふーん」と流されるので、最近は「車好きとも公言できず」、地下に潜ったような後ろめたさのある車好きになってしまっています。車の雑誌でCGというのがあり、もうかれこれ55年間も毎月欠かさずに購読していますが、もはや慣性力に頼った惰性です。最近この雑誌の内容がまったく面白くない。かつての編集者の小林章太郎の記事で育った世代としては、全く持って嘆かわしいが買い続けて応援をしています(複雑な想い)。

●車の未来は全く別物の未来

すぐそこに迫った未来の車は、移動中全自動で運転しなくてよいのだそうですから、「運転することが好き」という人種には「買う車がない」という未来が来そうです。「移動中はシートを倒してベッドにして寝ていても良い」「AV機能で生コンサートを体感しながら聴いても良い」「窓から天井まで全面スクリーンでオンライン会議もできる」などで、「移動中も有効な時間へ」ということが車のコンセプトになる未来のようですから、「人馬一体は非生産的な時間」のようで排除されそうです。

車の概念が変わってしまいますから、それならとSONYも参戦という時代です。使用目的が従来とはまったく変わってしまう車の未来を見ていると、住宅の未来はどうなるのだろうと考えてしまいます。イーロン・マスクのようなゲームチェンジャーは今のところ住宅業界には見当たりません。このまま惰性で従来の住宅づくりをしているようでは、じり貧の業界になってしまうかもしれません。

住宅はハード競争の時代が終わったと考えた方が良い

少なくともこう考えるべきです。ハードの性能などもはや特徴ではなくあたり前の時代です。その性能を使ってどのような暮らしを実現できるのかがポイントです。特に暮らしの楽しみを「家の外に求める人々は一戸建住宅を所有する意味を見いだせていません」。ハードの訴求は、一戸建住宅を所有することが当たり前と考えられていた人生双六の上りをみんなが目指していた単一価値観の時代です。

その中では「家というモノの良さ」がセールスポイントだったかもしれませんが、今は住宅業界という狭い世界が市場ではなくよりボーダーレスの業界間で目に見えない競争が激化します。「暮らしをより楽しくしてくれるコト」にお金を使います。隣の工務店や全国大手住宅会社がライバルではありません。スマホがライバルです。この小さな機器は個々の関心事を手軽に引っ張り出して楽しむことができる魔法の長方形のプレートです。

●楽しい暮らし、心豊かな暮らしの競争時代

車が移動しながらAVもゲームも楽しめて、映画もどこでも観ることができる。「家なんかいらない」という人種が増えそうです。住所不定で全国どこでも気の向いたところで、在宅勤務ではなく「車中勤務」可能です。

住宅ローンは圧縮したいがスマホ代は払うという現象が既に起こっていますから、とうに住宅のライバルはスマホですが、そう遠くない未来にもっと手ごわい近未来の車が一戸建住宅のライバルになりそうです。益々非婚化は進み、住宅は「必要ない」という世代がでてきそうな予感さえします。

まとめ

というわけで相当に脱線しましたが、「家を所有することの変化」の最終形はとんでもないことになりそうな予感はしますが、このようなスマホや近未来の車に対抗し、「暮らしを楽しみ人生を楽しむ住まいの実現」でライバル業界を圧倒していきたいと思います。モビルハウスも住宅需要に取り込みながら。

《執筆者》
株式会社ハウジングラボ
代表取締役社長 松尾俊朗
一級建築士

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