お客様層を「ローコスト住宅~中高級住宅」では、もはや分類出来ない
2022/04/08
1950年代から1970年代は、住宅不足から住宅市場は「住宅というモノを充足させる量」の時代でした。それ以降21世紀の今日までは、着工数は減少しながらもひたすら住宅の耐震性、断熱気密性能、設備の高装備化と「住宅というモノの質」を追い求めてきました。その結果、モノとしての住宅は世界最高水準に到達しました。従って「同じ性能なら安い方が良い」という市場原理と超低金利、デフレ市場でローコスト住宅が台頭し、特に若年層市場を開拓してきました(図-1参照)。
各社のホームページを見比べてみると、「外観デザイン」は中高級住宅系とローコスト住宅系の会社で差が分からないという実態が見えてきます。
目隠しテストをされたら外観デザインでは、どれが中高級住宅系でローコスト住宅系の住宅なのか判然としません。性能等級も双方とも高く、これも差が無いとなると、誤解を恐れずに申し上げると、中高級住宅系とローコスト住宅系の住宅の差は「価格だけ」となってしまいそうです。
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中高級住宅の立ち位置は曖昧
全国大手住宅会社の客層は、これも誤解を恐れずに申し上げると「ブランド神話を信じる保守的な客層」です。それ以外の客層を受注する営業力は弱くなってきていると言わざるを得ません(こんなこと言うと叱られそうですが)。「信頼のブランド」がある全国大手住宅会社は、一定のシェアは獲得できますが、ブランドを持たないエリアの中高級住宅を対象にビジネス展開されている住宅会社/工務店は苦戦を強いられています。その原因は、先ほど記したように「中高級住宅系とローコスト住宅系住宅」の差が不鮮明化したことにあります。
住宅のモノのとしての高性能、高品質、高装備がある程度以上の行きつくところまで行ってしまい、しかも需要が伸びないとなると「競争の対象分野は価格」になるというのは普通の市場原理です。ローコスト系住宅に加えて「中級住宅」も追い上げて来て、徐々に存在感を失ってきたというのが「中高級住宅の立ち位置」です。
住宅業界は時代に鈍感すぎると言っても過言ではない
内閣府が長年調査をしてきた「日本人の購買判断基準」は、1980年代初頭に「モノの豊さ」から「心の豊かさ」が上回り、現在では1:2と倍ほどの差がついています。先ほどの図-1の持家着工数がピークアウトした時代に「モノの豊さ」から「心の豊かさ」へと転換しています。以前から時代は「モノからコトへ」と叫ばれ続けていますが、住宅業界だけは「モノの豊かさ」一辺倒です。これには官主導の住宅政策も影響しており、政策として省エネ、耐震性向上などのモノの性能というハード基準を引き上げてきたという経緯もあります。住宅産業は民間市場ですから、市場のお客様との価値観の乖離が進んだと言えるでしょう(上図参照)。
モノで差別化を図ろうとしても「中高級住宅」は「高いだけ」という存在になりかねない危うい状況です。
「お客様の暮らし」をマーケティングの中心に置いていない住宅業界の鈍感な感覚で、現在も「モノの豊かさ」に縛られ「ローコスト住宅との差別化」も基本的には「モノの差別化で」ということが意識することなくナチュラルに起こっています。中高級住宅の在り方を大きく転換する時期に来ています。
●住宅の基本は「安全/安心/快適」性能です
耐震性能、防火性能、断熱気密性能、耐久性脳、防犯機能などの安全/安心/快適は、住宅の基本性能で確かに重要です。しかし、この性能分野の一本槍では、21世紀の世界で最高クラス近くまで性能と装備が到達した日本の住宅市場では競争に勝ちにくく、価格へ逃げ道を見いだす傾向が強くなりがちです。ここへきて建築資材の高騰という局面を迎えて特に「中高級住宅」は行き詰っています。
●住宅のもう一つの基本は「生活利便性」です
部屋数から始まって収納、動線の改善など「生活利便性」の向上も重要な住宅のモノとしての機能だと思います。
ここで考えなければいけないことは、「安全/安心/快適」性能と「生活利便性」は現状の生活の不満の裏返しであって、「解決されてあたり前」の分野だということです。
従ってここでも「解決して当たらい前」なら「安い方が良い」となってしまい、この面からも「中高級住宅」の存在は薄くなっています。
個々のお客様にとって魅力的な「プライスレスの価値」を持つ住宅
建築資材の高騰による住宅価格上昇局面にある現在、ローコスト住宅も例外ではなく最も価格帯が安いゾーンでは、「客層の消失」ということも現実になっています。それ以外の客層では、ローコスト住宅も中高級住宅も10~20%の価格アップをせざるを得ない状況になっています。お客様の収入アップを軽く追越してしまう価格アップですから、「床面積の縮小」か「安いクラスの住宅」へお客様が流れるという現象が起きています。お客様も「何を削るのか」の話しばかりでは、せっかくの新しい住まいづくりへのモチベーションが下がってしまいます。
個々のお客様の「これだけは実現したいコト」という「魅力的な心豊かな暮らし」部分だけは「プライスレスの価値」を手に入れていただきたいものです。限りある建築資金の中でも、この「プライスレスの価値」への対応力を持つ住宅が「中高級住宅というモノ中心の住まいづくり」に替わって新たな住まいづくりの立ち位置を占める時代です(図-2-2)。
個々のお客様にとって魅力的な「プライスレスな価値」への対応力
多くの住宅会社/工務店の仕様は、「うな重の松・竹・梅」のような家全体の仕様が「高い仕様~安い仕様」というメリハリのない仕様です。これで悪くはないのですが、問題はメリハリをつけるのは「個々のお客様」ですが、これをサポートするお客様対応力が無いということです。
建築資金の予算配分のメリハリ中のメリハリは個のお客様にとって魅力的な「プライスレスの価値」ですから、これをお客様と一緒に見いだして共有化し、思い切ってメリハリの利いた「プライスレスの価値」を内包した住まいづくりを進めましょう。お客様が枠を設定した「予算突破の原動力」は、個のお客様にとって魅力的な「プライスレスの価値」ある心豊かな暮らしです。
●「暮らしインタビュー」という個のお客様の魅力ある「プライスレスな価値」ある「実現したい暮らし」をお客様と気づき共有化する手法
多様化したお客様の個々の価値観に対応するためには、専用の手法を導入する必要があります。「お客様に聞いても答えは出てこないのが、お客様ごとの『プライスレスな暮らしの価値』」です。
お客様の暮らしに関心が持つことができる社員なら、研修と訓練、実戦でのフォローアップで「暮らしインタビュー」手法は導入可能です。「暮らしインタビュー」はノウハウですから、「プライスレスの価値」を引き出すということの本質的な目的を分かってノウハウを身に着けるためには、ある程度の努力は必要です。
■多様化したお客様の個々の価値観に対応する「気づき共感営業」
まとめ
建築資材の高騰が続き、ロシアのウクライナ侵攻で原油価格も経済の先行きも不透明感を増す中、住宅事業も新たな発想を持って推進する必要があります。従来の「中高級住宅」は魅力を失い、新たな視点のこれに替わる魅力的な住まいづくりが必要です。「プライスレスな魅力を持った住宅」は価格突破力も持ち合わせています。取り組む価値のあるジャンルです。
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《執筆者》
株式会社ハウジングラボ
代表取締役社長 松尾俊朗
一級建築士