住宅営業の視点変更で「中高級住宅」を再構築-1
2022/05/23
最近20年間「中高級住宅」の存在感が徐々に薄れ、ローコスト住宅が勢いを増して最盛期を迎えているところへ建設資材の高騰という外的要因の価格上昇局面を迎えました。このような環境を踏まえて「中高級住宅」は今後どこへ向かえばよいのでしょうか。
住宅の性能が向上し、一定水準以上であれば安い方が良いという市場原理と超低金利政策の継続で、特に地方でローコスト住宅は、「アパート家賃で家が建つ」という「説得力のある謳い文句」で戸建住宅でのマーケットシェアを伸ばしてきました。結果として中高級住宅の影が薄くなってきましたがこのままで良いのでしょうか。「良いものをより安く」というのは耐久消費材である住宅市場に於いても「正しく市場原理」が働いていると思います。ただし、お客様にとって「半世紀以上続くその住宅での暮らし」という「暮らし視点」で考えたときに本当にこのままで良いのかという疑問が浮かびます。
また、業界全体としても新たなお客様メリットを創出し、お客様が支払う金額に対してより大きいメリットを提供するという、「正しい付加価値アップ」で需要を喚起することによって、新たな市場開拓と育成を実現するという考え方も、住宅業界全体の発展のためには必要不可欠な視点です。
「中高級住宅」を根本から見直し再構築を考えて行きましょう。
ローコスト住宅と中高級住宅の差が見えない「住宅のクラスレス化」
「中高級住宅」を担当しているある会社の営業に「『ローコスト住宅』と自社商品は何が違うのか」と問うと、耐震性能や制振装置、断熱気密性能が違うという話しが出てきましたが、「最新のローコスト住宅の性能」について説明すると「えっ、当社と遜色ないですね」と驚いていました。もう少し詳しく比較してみると、違いが鮮明だったのは床材の厚みで、見た目には変わらないがツキ板表面材0.6mmと無垢板18mmと「30倍もの差がある!」という結果でした。この「見た目には差が無い」というのがローコスト住宅発展と中高級住宅の影の薄さのポイントです。
耐震等級3、温熱等級4、長期保証等の性能と保証も「見た目には差がない」、デザインも大差なく、プランも3~6LDKがベースで自由設計ですから「見た目には差がない」ことになってしまいます。
お客様が各社のホームページを検索して情報収集しても、掲載されている情報レベルでは「見た目に差がない」ことになってしまっています。「住宅のクラスレス化」が住宅のハード面では市場に浸透してきています。
生き残っている中高級住宅の現状
前出の住宅営業が苦し紛れに言い放った「価格が高いことが『差別化』です」ということはあながち間違ったことを言っていません。全国大手住宅会社は明かにブランドが確立され、会社として信頼されていますので、確かに「価格が高い」ことが差別化になっています。しかし大手住宅会社のマーケットシェアは十数%で、この20年間、変化は少なく伸びていません。一定のブランド信奉者は存在するものの、マーケットシェアを伸ばすことは出来ていないということです。
自然素材系の住宅会社は「構造材まで無垢」、「漆喰」「セルロース断熱材」等などという「材料」での差別化が主体で、これも一定の「中高級住宅」を供給していますが、「同ジャンルのローコスト系の出現」「材料のテースト感が限定される」ことも相まって、一定数程度のマーケットシェアに留まっています。
「設計デザイナー」が前面に出て対応している、住宅会社やデザイン系の設計事務所とのコラボを進めている会社は「ローコスト系」と「中高級系」の双方がありますが、いずれにしても住宅市場全体から見ると大きなマーケットシェアは得ていません。
超高性能住宅を掲げている会社は一定の熱烈なコアなファンを獲得していますが、大きなメインストリームになるところまでには至っていません。性能アップ競争はやがて全体としてより高性能へシフトしていくというのが住宅業界の歴史です。
大まかに捉えればこれが「中高級住宅」市場で一定の数を形成している属性別の現状です。
「暮らし視点」の欠落が「中高級住宅」の凋落を招いた
住宅会社/工務店の機能は「住宅建築」という「モノづくり機能」とそれを売る「住宅営業機能」が主たる業務です。この機能が暮らし視点へと拡張していないことが「中高級住宅」が凋落してきた原因です。
設計やインテリアコーディネーター(IC)はモノづくり関連の業務です。設計はその出自から本来業務は「建築基準法はじめ法的に適合する住宅の設計」が基本機能です。「提案設計」という時代もありましたが、ネット社会の進展によって「情報主導権はお客様へ」と移ってしまった以上「押しつけ設計」になり、中々機能しなくなりました。一方で「自由設計」という名の「お客様の言いなりプラン作成」の影響もあって「プランの漂流」を招き、プラン変更が多く、お客様満足度もあがらず、特に中高級住宅においてはプランが中々決まりにくい状況下にあります。また、ICの出自から本来業務は「物品の販売助成員」ですから、「モノの選定と色柄決め」が現状の主な業務です。現状のこれらの機能は必要ですが、もう一歩踏み込んで検討すると現状の問題点が浮かび上がってきます。
「中高級住宅」がその存在感を高めることができないのは、「住宅というモノの形(プラン/デザイン)や仕様」を設計、コーディネートする際の本来の根拠となる「お客様の現在と未来の暮らしを中心に置いて考える」という「暮し視点」が欠落していることが原因であるということにたどり着きます。
「ローコスト住宅」中心の会社との「決定的な差別化」は「お客様の暮し視点の住宅事業展開」を図れるかどうかにかかっています。「ローコスト住宅」系の会社と比べて比較的多くの営業、設計、ICスタッフを有しているという経営資源を活かすためにアップグレードすることで、暮らし視点での住宅事業展開は新たな地平を拓くことが可能になります。
まとめ
「住宅営業の視点変更で「中高級住宅」を再構築-1」として住宅市場の現状と「中高級住宅」市場対応の問題点と原因を「お客様の暮らし視点の欠落」という角度から指摘しました。決して暮らし視点がゼロというわけではないのですが、大きく欠落している部分があり、そこに発展する余地が大きく存在しているということです。
この記事の続編である「住宅営業の視点変更で「中高級住宅」を再構築-2」で、継続的な発展となる「中高級住宅の再構築」について考察を進めたいと思います。
《執筆者》
株式会社ハウジングラボ
代表取締役社長 松尾俊朗
一級建築士