住宅営業の視点変更で「中高級住宅」を再構築-2

「住宅営業の視点変更で「中高級住宅」を再構築-1」の記事で詳しく記しました通り、現状の「中高級住宅」と「ローコスト住宅」を比較すると「見た目には差がない」という結論になってしまいます。
この状態から脱して「価格以上の価値の差がある」状態へ持って行くためには、どのような住宅営業の変革が有効なのでしょうか。

先ず我々住宅業界に携わる者は自己認識がないまま過去の成功体験にとらわれているということを再認識しましょう。LDKが発明され、世に出てから本年でちょうど70年ですが、基本は今も変わらずに3~6LDKと部屋数が増しただけのプランを作成しているということです。「当時の日本人の単一価値観」の延長線上で「誰でも暮らせる一般的なプラン」を今でも無意識に下敷きにしてしまっていることを物語っています。

「標準世帯」という概念が現わしているように、誰もが豊かな生活の象徴である「3種の神器の3C」を望んだような、単一的な価値観の高度成長時代とは異なり、現在は「多様化の時代」になっていることを理解しながらも住宅事業ではズルズルと過去に引きずられて、そうはなっていないということです。
「標準解の時代」から「個別解の時代」へ遅ればせながら脱皮するときです。

住宅営業では、お客様一人一人の顔を見ずに「自社商品特長を一方的に伝えようとする」営業から、「お客様の暮らしや価値観を理解する」お客様を受容れる営業へのシフトが求められます。

個々のお客様の実現したいコトへフォーカスした住宅は「プライスレス」の価値を持つ住宅

住いづくりをお考えのお客様は「住宅というハードを買いに来ている」ため、お客様自身がご自身の住まいづくりで「実現したいコト」については、営業が触発しない限り関心が無く気がつきません。狭さや部屋数、収納不足、寒さ暑さや自身への不安が先になってしまいます。もちろんこれらのことも重要なことですから充分に対応します。しかし、たったこれだけのことに対して数千万円の生涯消えない借金を抱えてまでも、購入するというだけの価値が、この考え方の住宅にはあるのでしょうか。今後半世紀以上も継続して生涯に亘って住まう住宅です。生涯心豊かに暮らせる住宅とは何かをもう少し触発し、気づいていただく必要があります。

営業は自社商品としてのモデル住宅を使って、お客様が少しでも関心のある暮らし分野での「触発」を行い、お客様自らがささやかでも「実現したいコト」に気づき、営業がその「価値観」を理解し共感するという小さな一歩から「住まいづくりの目的」を考えていただくスタートを切ります。最初は小さな気づきですが徐々に「実現したいコト」へと、心豊かな暮らしの実現に向けて、暮らし視点で触発と気づきを重ねながら、お客様にとって「プライスレス」の価値を持つ住いを実現していただきます。

「プライスレス」の価値を持つ住宅の事例

これから思春期を迎える小学生の2人の娘様をお持ちのお客様が、モデル住宅の「家族が自然に集まる」リビングの工夫に触発をうけて、「生涯心豊かに暮らす」ためにまず、娘たちの思春期を家族仲よく過ごしながら成長していくためには、どのようなリビングにすればよいのだろうかと考えられました。どのようなリビングにするのかではなく、そこでどのような暮らしがしたいのか、つまり「リビング」という場所で「どんなコト」を「誰と」するのかという「暮らしの具体的な中身」、言い方を変えれば「実現したいコト」を考えていただきました。

現在はご主人と一緒にお風呂にも入ってくれるが、もうそれも今年で終わり、難しい年ごろを迎える時期に差し掛かるが、何か、こういう時期に親子のコミュニケーションを生み出す工夫はないかと考えられていました。それならと楽器好きのご一家のOB宅訪問で楽器を介してのコミュニケーションという方法で、音楽と楽器の使い方の話しをしながら学校の話しも、受験の悩みも話すようになったというOBのお客様の体感体験につて「触発」を営業が行ったところ、たまたま奥様がビーズアートをはじめられたところで、二人の娘様が興味を持たれたということにご主人が「気づき」、営業が「手作業のアートづくりというご家族の共通の価値観」に「共感」し、それならこんな「フリースペース」をリビングの一角に設けるか、ダイニングテーブルを大型化してはどうかとモデル住宅のリビングとダイニングで参考画像を使ってご一緒に考えながらご主人も参加してできるようにも工夫してはどうかと言う話しになりました。家族が集まって共通のビーズアートづくりという「コト」を楽しみながら、子を応援したい親の気持ちと、自立して自分の力で歩み出したい子の気持ちを、「作業しながら」という話しやすい環境で自然にお互いのことを理解できる場を創ろうということになりました。

「アート&クラフト・コーナー」と奥様が名付けたその部屋は二人の娘さんが中学、高校、大学へと進学、成長されて行く中で、お互いを思いやりながらも、不器用な親子の互いの気持ちが何となく伝わるコーナーとして使われて10年が経ちました。「やがて娘たちが巣立って、新しい家族を持ち、孫たちを連れてここへ帰って来た時に、このコーナーで起こった様々なことを孫たちにも伝えながら幸せに育った多感な時期を思い出してくれれば良いなと思います。お陰様で思春期も、これといった問題もなく、娘たちの笑顔を間近で見ながら過ごすことが出来ました。このコーナーは私たち家族にとっては『プライスレス』の価値があるコーナーです。」

お客様の暮らしを中心に置いた「プライスレス」の価値を持つ住宅づくりこそが「中高級住宅」の進化系です。

個々のお客様の「プライスレス」の価値を持つ住宅づくりへ

「プライスレス」の価値を持つ住宅づくりという「中高級住宅」の進化系の住宅事業展開には3つのポイントがあります。(参考:https://www.housing-labo.com/#top-consulting)

1、暮らし視点の営業への発想の転換

具体策としては既に完成されて洗練化された「気づき共感営業」方式という、個々のお客様の「実現したいコト」の「触発」と「気づき」をもたらし、営業がお客様の価値観に「共感」してそれを実現に向けて行く営業手法の導入です。

2、お客様にご自身の暮らしを認識していただく

「生活タイムスケジュール表」でお客様がご自身の暮らしについて営業と整理しながら、お客様ご自身が暮らしの実態と「小さな幸せの時間」を認識して、そこを起点に「実現したいコト」へとつながる設計にも直接影響するプロセス手法を導入します。

3、暮らしにフィットした住まいづくり

「暮らしフィット設計」で個々のお客様の「プライスレス」の価値を持つ、「暮らしの重心をお客様と共有」しながら進める確実に受注につながる設計手法を導入します。

まとめ

個々のお客様の「プライスレス」の価値を持つ住宅は決して大げさなものではなく、その場がこのご家族が「実現したいコト」を十二分にサポートできる空間と機能、仕様なのかという視点が重要です。個々のお客様の「プライスレス」の価値を持つ住宅のコア部分は、このご家族以外には「で、なに?」というものもあるかもしれません。確かに大型のアイランドキッチンで多人数での料理が可能で、多人数対応のリビングが必要になるという「パーティ好きのご家族」なら「大技」が必要になりますが、「まじめな普通の成功者」というお客様には「小さな幸せ」がそのご家族にとっては珠玉の時間となる場合が多く、その芽は日常の暮らしの中に埋もれています。「お客様の暮らし視点」でという発想転換によって他社と大きく差別化された個々のお客様の「プライスレス」の価値を持つ住宅を実現することが可能になります。

《執筆者》
株式会社ハウジングラボ
代表取締役社長 松尾俊朗
一級建築士

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