注文住宅上位客層シフトで「価格帯の大台突破」を成功させる戦略(後編)前中後の3編

【前編・中編のあらすじ】

前編では、住宅市場が直面する「価格の台替わり」という構造変化と、従来の「モノ売り」の限界について論じました。中編では、その打開策として「注文住宅の本質」、すなわち「個々の家族の暮らしにフィットした器を創ること」に立ち返り、お客様との「対話」を通じて潜在的なニーズを引き出し、暮らしを具体化していく新しい営業・設計アプローチの重要性を考察しました。

最終回となる後編では、この新しいアプローチを事業として成立させるための具体的な戦略、すなわち「二正面作戦」の展開方法と、現代の顧客行動に合わせた集客プロセスの再構築、そしてこの変革を成し遂げるための組織としてのあり方について考察します。

二正面作戦の具体的展開 – 上位価格帯客層と従来価格帯客層の同時攻略法

「注文住宅の本質」に基づく個々のお客様への付加価値を軸とする注文住宅営業を軸としながらも、住宅事業全体の安定性を確保するためには、利益確保と受注棟数確保の両立が不可欠です。また、この「注文住宅の本質」に基づく営業手法「気づき共感営業」のノウハウ吸収と実施、組織全体への浸透ということを考えれば、「明日から上位客層へ全面切り替え」とは行かず、そのため、現実的な営業戦略としては、「上位価格帯客層攻略」と「従来価格帯客層への対応」を同時に実行する「二面作戦」にならざるを得ないと思います。

上位価格帯客層対応の営業戦略で利益確保:「注文住宅営業の進化」による個々のお客様への付加価値提供

上位価格帯客層の攻略は、注文住宅営業手法の大幅な「進化」です。
前述した「個々のお客様が実現したい暮らしの付加価値」で、高価格帯住宅の受注へ結びつけるのは、お客様のライフステージごとの暮らしや価値観を理解して進める営業手法です。従来営業手法とは全く視点が異なります。
従来の自社住宅の特徴を訴求する「自社と他社比較」での自社優位性の訴求と、「自由設計」という名のお客様の要求を受け入れる住宅営業から進化しなければならず、考え方と行動の「改革・革新」という「進化」が必要です。

従来客層対応で棟数も確保:「工夫」による価格対応

既に多くの会社で「お客様のご予算に合わせるための工夫」として、面積の縮小、バリュー仕様などの名称で、部材メーカーと交渉して特定商品の安値仕入で対応した仕様を組み合わせた商品を投入されていると思います。さらに、設計の手間も省き、材料の標準規格サイズとも組み合わせてコストを下げる手法として、外形サイズを規制するが内部の「間取り」は「自由設計」とした「準規格プラン(セミオーダープラン)」などで対応されていると思います。このような工夫をしながら、自社ブランドを活かして、コスト抑制と顧客満足度を両立させる価格対応への工夫も、現実的には一定数の受注棟数を確保するためには必要です。

例えば、建物の外形や基本構造(例:7.2m角の総2階建て32坪)を規格化することで、材料費削減、工事人工の削減、設計工数を大幅に削減してコストを抑えます。外形は4間真四角のキューブ形状ですから、それだけで、耐震等級3などの基本性能は、確保されています。その上で、お客様には間仕切りの変更のみを「自由設計」として提供しますから、自由度はある程度確保されます。さらに、打合せには「一級建築士」の資格を持つ社員(若く経験がなくても有資格者)を同席させることで、自社ブランドの高さと、専門性と信頼性を確保し、準規格住宅(セミオーダー住宅)で、そのお買い得感をお伝えすることができます。たとえ経験の浅い若手社員であっても、「一級建築士」という肩書が、お客様に大きな安心感を与えます(もちろん外形規制がある上に、内部の水回り位置、階段位置、窓のサイズと数など「内規」を理解しての運用と最低限の接客訓練は必要)。
結果として、お客様は「全国ブランド、あるいは地域ブランドの企業が、専門家である一級建築士と共に、手の届く価格で自由設計の家を建ててくれる」という満足感を得ることになります。実質的な設計自由度は限定的ですが、ブランド力と巧みな価値創出を組み合わせることで、基本性能とコスト抑制を両立させ、従来の価格帯での受注確保の工夫をします(既に実行されている会社が多いとは思いますが)。

また、地域住宅会社の場合は、大きな強みの一つに、社長や専務といった経営トップが、直接お客様に対応できる機動力と柔軟性が挙げられます。これは「会社の最高責任者が直接向き合います」という、何物にも代えがたい強力なメッセージを発信できることを意味します。
もちろん、全ての商談に経営トップが同席する必要はありませんし、現実的ではありません。重要なのは、その存在を効果的に活用することです。自社が持つ人材、ノウハウ、そして地域での信頼といった有形無形の経営資源をいかに組み合わせ、最大の効果を生み出すか。この緻密な戦略の組み立てと実行計画こそが、今後の受注棟数確保の鍵を握ります。
従来の営業手法をそのまま踏襲していては、受注棟数と利益の確保は極めて困難になります。
対症療法ではありますが、「知恵と工夫」が不可欠です。

ただし、ここで注意することは、従来価格帯の客層への対応は、あくまでも、補助手段であるということです。上位価格帯客層へのシフトが王道であり、そこへの切り替え期間の一時的な対症療法であるという位置づけです。麻薬的にこの手法を継続させると破滅に向かいますので注意しましょう。物価と金利上昇が常態化し継続する中では、上位価格帯客層へのシフトこそが、継続して安定成長する根幹の戦略です。

現代の集客プロセス – 「一次選考」と「二次選考」を勝ち抜く

お客様の購買行動がデジタル中心へと移行した現在、集客プロセスもそれに合わせて再構築しなければなりません。

一次選考:Web上では「ファーストビュー5秒」への対応が重要

お客様が住宅会社を選定する初期段階の「一次選考」とは、お客様が現在持ち合わせている知識や情報に基づいて、初期のスクリーニングを行う段階を指します。
この段階におけるお客様の行動特性を理解することが重要です。ご自身の「理想の暮らし」という抽象的な概念はあっても、具体的に「ご自身の暮らし視点で、住宅会社の対応力を判断して会社を選定する」というお考えをお持ちのお客様は、その時点で極めて稀、いやほぼゼロです。従って、一般的なお客様の関心はキッチンの仕様や断熱性能といった、具体的で理解しやすい「モノ」としての住宅スペックに向けられています。
お客様は、各種Web広告、SNS検索などを通じて断片的な情報を収集し、興味を持った企業のホームページへと辿り着きます。そして、そこで得た情報を、ご自身が持つ既存の判断基準に照らし合わせて、その住宅会社を評価します。

この一次選考を突破するために不可欠なのが、自社の住宅特徴を、端的かつ明確に伝える情報発信です。特にウェブサイトのファーストビュー(ユーザーが最初に目にする画面)において、わずか5秒という短時間でお客様の心を掴む必要があります。

例えば、「自社の3大特徴」といった形で、訴求ポイントを絞り込み、直感的に理解できるキーワードで提示することが有効です。

【訴求メッセージの具体例】

① 自然素材: 東濃ひのき
② 耐震等級3・温熱環境等級7
③ 最上等級の家

このように、強みを凝縮して提示することで、お客様は瞬時にその会社の価値を認識できます。これが、競合の中から選ばれ、次の検討段階へと進んでいただくための、最初の重要な関門「一次選考」です。もちろんこの「一次選考」時に、ファーストビュー5秒ではなく、ホームページの細部まで確認されて判断されるお客様も、もちろんいらっしゃいます。多様なお客様の情報収集に応えられるように、ホームページやネット系広告の準備を進めますが、全国大手住宅会社、地域大手住宅会のホームページを含む、ネット戦略は、概ねうまく構築されており問題はないと思いますが、問題があるとすれば、支店単位などの商圏を絞った上で、お客様の閲覧記録やネット広告からの動線分析など、よりきめ細かな情報分析と対策検討で具体策を立案、実行するレベルが不十分かもしれません。

二次選考:「ご自身の暮らしに気づいていただく」という注文住宅の本来の対応へ

「二次選考」とは、一次選考を通過したお客様が、予約の上で見学会やモデルハウスに来場される、より深い検討段階を指します。しかし、多くの営業現場では、この重要な場面で深刻な機会損失が発生しています。
現状、多くの営業担当者は、個人的な人間関係の構築に比重を置くか、一次選考でお客様が程度の差はあっても、「一次選考」通過程度に、ご理解いただいた住宅のハードの説明に時間を費やしているのが実情です。これは、お客様の視点に立てば、一次選考段階の入り口で得た情報を再度聞かされることに他なりません。さらに、過度に個人的な関係性を築こうとする姿勢は、現代のお客様からは敬遠され、「イヤな営業」というレッテルを貼られる要因になります。

コロナ禍以前は、一組のお客様が初期段階でモデル住宅/見学会などを訪れる会社数は平均3.5社/組から4.2社/組でしたが、現状では、1.7社/組から2.2社/組へと半減しています。これは、住宅取得に対する市場全体の動きの鈍化以上に、「一次選考」というネット上での住宅会社選択と「来場予約」という行動スタイルが定着したことを示しています。住宅取得の主力年代がデジタルネイティブ世代へ代替わりしたことも大きく影響しています。
結果として対象の住宅会社を絞って来場されていますので、「全ての来場者は受注可能な見込客」です。また、見かけ上は、来場組数は半減していますが、「実のある来場組数」は、コロナ前と「同程度」と考えてよいと思います。

そこで、これまで述べてきたように、「二次選考」というお客様への直接営業段階で我々がすべきことは、お客様一人ひとりへご自身の暮らしに気づいていただき、「個々のお客様の暮らしにフィットした暮らしの器づくり」という、「気づき共感営業」方式という、新しい注文住営業プロセスへ完全に切り替えることです。
お客様は、住宅のハード性能については、ご自身の価値観に基づいて一次選考の段階で既に一定の判断を下し、その上で来場されています。であるならば、二次選考の主眼は、もはやハードの再確認ではなく、お客様の個々の現状の暮らしや価値観、ライフスタイル、そして新しい住宅で「実現したい暮らし」そのものを理解し、共感、共有することです。この「ハードの確認」から「実現したい暮らしの対話で具体化」して行くことこそが、お客様との信頼関係を構築し、より予算をご納得の上引き出すことができ、最終的な受注へと導く唯一の道筋となります。

まとめ:変革への決断と実行こそが未来を拓く

「上位価格帯の大台へ」軽々と超えて前進して行きましょう。営業手法の進化は、もはや避けて通ることのできない現実です。この厳しい時代を乗り越え、持続的な成長を遂げるためには、「モノ売り」から「個々のお客様の暮らしにフィットした暮らしの器づくり」へと、住宅事業の根幹から発想を転換することが必須です。
上位価格帯客層へ対応できる「注文営業手法の進化」を早期に実現するために、実績のある「気づき共感営業」手法の導入を急ぎましょう。一方で過渡期には「二面作戦」も必要です。また、お客様の住宅会社選択の行動スタイルに呼応した「一次選考・二次選考」という集客活動と受注活動プロセスの洗練化も必要です。これらの戦略を成功させるためには、経営トップの強いリーダーシップのもと、全社的な意識改革、注文住宅営業方式の切り替えを断行し、具体的な戦術へと落とし込んでいく決断と実行力が求められます。
変化は常に努力を要しますが、それは同時に大きなチャンスでもあります。旧来の成功モデルが、通用しなくなった今こそ、他社に先駆けて「気づき共感営業」を導入し、変革を成し遂げた企業が、未来の注文住宅市場の覇者となります。

ハウジングラボは、注文住宅事業のコンサル/研修でサポートをこれまで26年間に亘り数多く手がけてまいりました。各社の企業特性や市場環境を理解し、各社へカスタマイズして、「気づき共感営業」方式を軸に、具体的な手法で成功へのナビゲーションを行っています。潮目が変わった注文住宅市場で持続的な安定成長のため、是非、貴社のスタッフとして、ハウジングラボをご活用ください。
貴社がこの変革の時代を勝ち抜くためのパートナーとして、お気軽にご相談ください。未来を拓くための第一歩を、共に踏み出しましょう。

ハウジングラボ「気づき共感営業」サポート詳細

注文住宅上位客層シフトで「価格帯の大台突破」を成功させる戦略(前編)

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