新しい「中級住宅」の定義と現状認識
2025/04/11

かつては、多くの家庭が手の届く価格で、ある程度の性能やデザイン性、暮らしやすさを兼ね備えた「ちょうどいい住宅」として捉えられていた中級住宅ですが、今はその基準が崩れつつあります。
経済状況の変化、ライフスタイルの多様化、価値観の転換、そして住宅価格の上昇。それらの要因が重なり、「中級とは何か?」「お客様が本当に求めているのは何か?」という問いが、今ほど深く問われている時代はありません。
つまり今、求められているのは、かつての“価格帯”や“仕様グレード”に縛られた中級住宅ではなく、暮らしにフィットし、心から納得できる“新しい中級住宅”の再定義なのです。
Contents
住宅業界を取り巻く環境変化と「中級住宅」再考の必要性

近年の物価上昇や原材料費の高騰、加えて人件費の上昇は、住宅業界にも大きな影響を及ぼしています。これまで「中級住宅」とされていた住宅価格帯の意味が、今や実感としての“中級”からかけ離れています。
一方で、住宅を検討するお客様の多くは、家族を育て、人生の基盤を築くための「良い家」を求めています。求められているのは、単に価格を抑えた家ではなく、「自分たちの暮らしにフィットする価値ある住まい」です。
このような背景を踏まえ、今一度、「中級住宅」という言葉の意味を見つめ直し、時代に即した住宅提案を考えていくことが、私たち住宅業界に求められています。
「中級住宅」の再定義が必要な時代に
近年、住宅市場において「中級住宅」とされる価格帯に大きな変化が起きています。かつては、2000万〜2500万円、あるいは高くても3000万円程度までが「中級住宅」と見なされてきました。しかし、建築資材の価格高騰、人件費の上昇、さらに物価全体のインフレ傾向を背景に、現在では3000万〜3500万円の価格帯が「中級住宅」と呼ばれるようになりつつあります。
大手住宅メーカーの販売価格帯を見ても、「中級」というカテゴリーに位置付けられる住宅がすでに4000万円以上となっています。それに対して地域の住宅会社・工務店が提供する中級住宅は、相対的に500万円〜1000万円ほど安価であるという構図が見えてきます。
価格上昇に対する不安と販売現場のリアル
住宅価格の上昇は、住宅会社側にとっても、購入を検討するお客様にとっても無視できない変化です。3000万〜3500万円の住宅が「中級」と言われる時代に突入している今、これを「高すぎる」と感じるお客様は少なくありません。
しかし、現代の住宅購入においては、かつての「安ければ売れる」という時代はすでに終わりを迎えており、今後は、物価の上昇、住宅ローン金利の上昇、さらには働き方やライフスタイルの多様化を背景に、お客様は「この住宅にこの価格を払う価値があるのか」を、よりシビアに見極めるようになると予想されます。
住宅購買層の世帯年収とローン可能額の実態
それでは、果たして3000万〜3500万円の住宅は「売れる」のか。この問いに対する答えは、現代の世帯年収水準を踏まえれば「Yes」であると言えます。例えば、夫婦共働きでそれぞれ年収350万円、世帯年収700万円という家庭は、都市部・地方問わず、決して珍しい存在ではありません。
このような世帯は、3000万円〜3500万円の住宅ローンが可能です。お客様の年齢としては、30歳で3000万円、35歳で3500万円という目安で無理なく住宅購入が検討できる層が厚く存在しています。
「35歳の住宅購入」を前提としたライフステージ設計
住宅購入の主なタイミングは、結婚・出産を経て家族構成が固まりつつある30代中盤、すなわち35歳前後が中心です。この時期に住宅を購入することで、ちょうど定年に差しかかる65歳前後までの約30年間を「子育て期」「教育期」として活用できるライフプランが形成されます。
そして、住宅購入から30年後の65歳以降の人生を考えると、今や「人生100年時代」に向かっていることを前提に住宅を見直す必要があります。例えば、90歳まで健康に暮らすことを前提としたとき、65歳以降にも30年近い人生が残されています。この後半の30年は、「子育て終了後の第二のライフステージ」とも言える期間です。
このように、前半の30年間を「ファミリーライフ」に対応させ、後半の30年間は「夫婦二人でのゆとりある暮らし」や「子ども、孫やお客様を迎える住宅」として、二段階の居住設計を視野に入れる必要が出てきています。
これからの住宅提案に求められる視点
住宅業界に携わる私たちに求められるのは、単に「安い住宅」を提供することではなく、「適正な価値と価格のバランスを持った住宅」を提案することです。そのためには、お客様のライフステージ、住宅に対する考え方、そして将来の暮らしまでを見越した提案力が不可欠です。
とりわけ中級住宅の価格帯が上昇する中で、従来の感覚や価格帯にとらわれず、将来的な生活設計に合致したプランニングを行う必要があります。「今」だけを見るのではなく、「30年後」「60年後」を見据えた住宅提案が、これからの住宅会社・工務店の競争力を左右する時代が到来しているのです。
価値ある中級住宅とは何か

かつては「広さや設備」で住宅の価値が語られてきましたが、今求められているのは「その家でどんな暮らしができるか」という「質」の部分です。同じ価格でも、空間の使いやすさや快適性、家族に合った設計によって感じる価値は大きく異なります。お客様の理想の暮らしを引き出し、具体的に提案する力こそが、これからの住宅に必要とされる本当の価値なのです。
長く愛される外観デザインの追求
お客様にとって価値ある住宅の一つ目が外観デザインです。
お客様が住宅の「価値」を感じる最も直感的な要素が、外観デザインなのです。住宅は一度建てると、基本的には数十年にわたってその姿をとどめることになります。そのため、見た目のインパクトだけではなく、長期的な視点で「飽きのこない美しさ」「所有者のライフスタイルを感じさせる個性」が求められます。
令和の暮らしに適応するプラン空間構成
お客様にとって価値ある住宅の2つ目のポイントは、プラン空間の構成です。
従来の「4LDK」に代表されるような間取りは、今の時代にそぐわなくなっています。今の家族像は、「一緒にいるけれど、それぞれが違うことをしている」という生活様式に変化しています。リビングで家族全員が同じテレビ番組を見る時代から、リビングでスマートフォンやタブレットを使い、それぞれが自分の関心に没頭する時代へと移行しています。
このような変化した家族の関わり方に合わせて、これからの中級住宅には「多機能でありながら、心理的なつながりを保てる空間設計」が求められます。例えば、ラウンジ的な要素を持つリビング、作業や学習に使えるセミオープンなワークスペース、さらにはキッチンを中心とした「キッチニケーション(Kitchen + Communication)」の考え方が、今後ますます重要になるでしょう。
子ども部屋=個性室という新しい提案
3つ目のお客様にとって価値ある住宅は、子供部屋の在り方です。
従来は「6畳の子ども部屋を2室」というのが定番でしたが、今後は子ども一人ひとりの特性や発達段階に合わせて設計する「個性室」という視点が重要になります。
特に小学校高学年以降、子どもはそれぞれの価値観や趣味、集中しやすい環境などが明確に分かれてきます。そのため、単なる「勉強部屋」ではなく、感性を育てる空間、才能を伸ばすための場としての機能を持たせることが、子育て世代の住宅において高く評価されるポイントです。
このような個性に寄り添った空間の提案には、単なるプラン集ではなく、顧客との綿密なコミュニケーション、すなわち、営業と設計の連携が不可欠となります。お客様が言葉にしづらい要望やライフスタイルを引き出し、形にすることが、真に「価値のある住宅」への第一歩となるのです。
構造・性能とカスタマイズ性の両立
4つ目のお客様にとって価値ある住宅は、構造工法です。
住宅の構造と性能についても、価格帯に見合った品質が求められます。温熱環境においては、省エネ基準への適合は当然として、6等級を基本とし、オプションとして7等級まで引き上げることで、お客様の快適性と光熱費の削減に大きく寄与します。最低でも5等級を確保することは、住宅を提案する側の責任として認識すべきです。
一方、耐震性能に関しては、今後30年以内に80%以上の確率で起こると言われている南海トラフ地震をはじめとする大規模災害が現実味を帯びている現代において、構造的安全性の担保は最優先事項です。そして、東日本大震災から学んだ、精神面へのケアも合わせた耐震性能も必要になってきます。耐震等級3の取得はもはや前提条件とも言え、これに加えて制震技術を組み合わせることで、「命を守る」だけでなく、「安心して住み続けられる」という精神的な安全性までを確保する住宅づくりが求められます。しかしながら、本来の耐震性能の趣旨は、「住宅は健康で文化的な生活をする空間」ですので、「開放感」「自然とのつながり」「採光計画」などを織り込んだ、単なる性能重視にとどまらない「文化的な住まい」としての価値を提供することが、住宅の差別化に繋がります。
暮らしやすさ=「収納と動線」がもたらす快適さ
5つ目のお客様にとって価値ある住宅は、暮らしやすさということです。
特に重要なのが「収納」です。
暮らしやすさの本質は、収納の「絶対量」と「適在適所」にあります。単にたくさん収納があるだけではなく、使う場所の近くに、必要なサイズ・高さ・仕様の収納があることが不可欠です。例えば、玄関周りには外出時の上着やカバン、通学用品をさっと片付けられる収納が欲しいですし、洗面室にはタオルや下着、洗剤などがすぐに取り出せる棚があると便利です。
加えて、収納とセットで考えるべきが「動線」です。短い動線、回遊動線、一筆書き動線といった概念は、現代の共働き世帯や多忙なライフスタイルに対応するうえで不可欠な考え方となっています。
・回遊動線:キッチンや洗面室、リビングなどが一体となり、家族がぶつからずスムーズに移動できる。料理をしながら洗濯、掃除を同時進行したい家庭に最適。
・一筆書き動線:玄関から洗面、脱衣、クローゼット、寝室へと流れるように移動できる設計。朝の支度や帰宅後の動きが無駄なくスムーズ。
お客様それぞれのライフスタイルに応じて、どのような場面で、どんな動きが多くなるのか。そこにしっかり寄り添うことが、住宅会社として本当に「価値ある提案」をしていくことにつながります。
住まいづくりのプロセスこそが価値である
6つ目のお客様にとって価値ある住宅は、住まいづくりのプロセスです。
従来の住宅会社では、「プランを決めましょう」「仕様を選びましょう」「このスケジュールで進めます」という流れが一般的でした。しかし、それでは本質的な意味での“お客様参加型”にはなりません。
これからの時代に求められるのは、お客様自身が「自分はどんな暮らしをしたいのか」に気づき、そこから住まいをつくっていくというプロセスです。
よくあるのが、「自由設計だから好きな間取りを言ってください」と促される場面です。しかしながら、その段階でお客様は「間取りの希望」はある程度出せても、「暮らし方のビジョン」は持っていないケースがほとんどです。
ここで重要なのは、私たち住宅会社が「暮らしに対して一緒に考える」ことです。
例えば、
・ 3年後、5年後、10年後に家族はどんなふうに成長しているか?
・ 子どもが独立したあとの使い方はどうするか?
・ ご自身のキャリアが進んだとき、人との関係性はどう変化するか?
・ 趣味やライフワークを家でどう活かしていきたいか?
こうしたポイントを丁寧に考えていくことで、お客様自身が「自分が大事にしたい暮らし」に気づき、それを住まいの形に落とし込むことができます。
そして、それは単なるプランニングの話ではなく、構造、設備、収納、間取り、素材、将来のリフォーム計画にまで広がっていきます。すなわち、「一生を見通せる住まいの設計」へとつながっていくのです。
住まいづくりの「軸」が、お客様の信頼を生む
7つ目のお客様にとって価値ある住宅は、それぞれの住宅会社がどういう住まいづくりのポリシーをお持ちになっているのかということです。実は、これが1番大事で、信頼の土台になります。
注文住宅は、お客様ごとに異なる背景や理想に向き合うことになります。だからこそ、住宅会社側にとっても、その場面ごとにぶれない“判断の軸”が必要です。単なる営業トークや看板に掲げるキャッチコピーではなく、本質的な意味で「私たちはこういう家づくりを大切にしています」と伝えられる軸があるかどうかが問われるのです。
例えば、子育て期から夫婦2人の暮らし、そして時には子どもたちが孫を連れて帰省するような暮らしへと、何段階ものステージを経ていきます。
「今は子育て重視だから、10年後にリノベーションすればいい」と割り切って家を建てる方法もありますが、果たしてそれで本当にいいのでしょうか。むしろ最初から「人生100年を見据えた住宅」をベースに考え、「暮らし方の変化に柔軟に対応できる」空間設計や構造を備えておくという思想こそが、現代の住まいづくりに必要な軸ではないでしょうか。
中級住宅こそ「軸」が問われる領域
特に、3000万〜3500万円という価格帯の中級住宅においては、「性能」「デザイン性」「暮らしやすさ」など、さまざまな要素が求められる中で、そのバランスをどのように設計するかがポイントになります。
例えば、
・ 人生100年を支える家を目指す会社
・ 子育てを快適に、安心安全に過ごせる家を軸にする会社
・ 趣味やライフスタイルを重視した“かっこいい暮らし”を支える家を追求する会社
それぞれのポリシーには正解・不正解はありません。重要なのは、それを曖昧にせず、会社として明確に掲げているかどうか。そして、その思想が、デザイン、間取り、性能、価格設定、アフター対応にまで一貫して貫かれているかが、お客様の共感と信頼に直結します。
この“住まいづくりの思想”をきちんと明文化し、伝え続ける努力が求められます。
お客様は価格ではなく「価値」に投資する
よく「住宅が売れないのは高いから」と言われます。この問題は、お客様が「価格に見合う価値を見出せていない」という点にあります。
人は人生のうち、およそ70%の時間を自宅で過ごしています。リタイア後にはその割合は90%にまで上がるとも言われています。つまり、自宅という場所は「人生の舞台」そのものなのです。にもかかわらず、十分な年収がありローンを組む余裕がある人が住宅購入に踏み切れないのは、住宅営業側が「本当に価値ある暮らし」を提案していないというサインなのです。
「どんな人生を送りたいか」「どう生きたいか」という本質的な問いに向き合い、お客様の想いに寄り添い、それを言語化し、住宅という形に昇華する。これが、本来あるべき住宅営業・設計のあり方です。
そして、そのすべての起点にあるのが、住宅会社としてのポリシーなのです。
これからの中級住宅に求められること

今後、中級住宅市場で成功するためには、単に「性能」「コストパフォーマンス」「おしゃれ」といった表面的な魅力だけではなく、
・ 会社としてどんな暮らしを支えたいのか
・ なぜこの価格帯でこの提案をしているのか
・ どのような想いでこの間取りを考えたのか
といった、「考え方」が求められます。
つまり、お客様は「“家”を買っているのではなく、“暮らしの設計思想”を信頼している」のです。
このことをすべてのスタッフが理解し、発信できるようになること。それが、これからの住宅会社が中級住宅で信頼を得るための“最大の営業力”であり、“差別化ポイント”となるのです。
納得して、手が届く
今、お客様が本当に求めているのは、「この家で暮らしていけば、幸せな人生が送れると思える」と、納得して購入できる住宅です。
これが、これからの「新しい中級住宅」に求められる最大の価値です。
それを実現するためには、今まで住宅会社が重視してきたハード面、つまり構造・性能・設備といった物理的要素だけでは足りません。これからは、それに加えて、
・ お客様の暮らし方への深い理解(営業力)
・ 暮らしに寄り添った設計(設計力)
・ 飽きのこない本質的な美しさ(デザイン力)
といった「ソフトの部分にどれだけウェイトを置けるか」が重要になります。
「価格以上の価値がある」とお客様に実感してもらえるか
新中級住宅の価格帯である3000万円台の住宅は、まさに一般のお客様が現実的に手に届くラインです。ここに「本当の暮らしの価値」がしっかりと込められていれば、「価値ある選択肢」として多くのお客様の心に響くはずです。
そのためには、「うちの住宅は高性能です」「自由設計です」だけでは不十分です。
・ お客様自身が「自分はどう暮らしたいのか」に気づくプロセスを共に歩み
・ その気づきに寄り添う形で家を設計し
・ その家が時間の経過とともに、より価値を増していくような住まいである
そういった“考え方”と“姿勢”が、住宅会社の根本としてあるべきです。
地域に根ざす住宅会社だからこそ、できることがある

その地域特有の家族構成、気候、風習、暮らしのパターンを理解したうえで提案できるというのは、地域密着型の住宅会社にしかできない大きな強みです。
つまり、新しい中級住宅とは、地域のお客様の人生に深く関わり、その未来を一緒に描いていく住宅です。
「箱」ではなく、「暮らし」の提供へ

現在、ローコスト住宅市場では「家という箱をいかに安く提供するか」という発想が主流ですが、そのアプローチには限界があります。
本当にお客様が求めているのは、単なる住居ではなく、「暮らしの質を高めてくれる住まい」です。
3000万円台という価格帯の中で、「お客様が理想の暮らしを見出せる家」を丁寧に提供していくことこそが、これからの住宅会社の使命であり、地域で生き残っていくための戦略だと考えます。
まとめ
新しい中級住宅とは、「ちょうどよく、深く、暮らしにフィットする家」であるべきです。
・ お客様の暮らしに合った設計
・ 将来を見据えた柔軟な構造
・ 共感できる住まいづくりのポリシー
・ デザイン、性能、価格のバランス
これらを備えた住宅こそが、「新・中級住宅」として、これからの時代に選ばれていく住宅です。
そしてその価値を、お客様と一緒に見つけ、育て、伝えていくこと。これこそが、これからの住宅会社に求められる「最も重要な仕事」です。