注文住宅上位客層シフトで「価格帯の大台突破」を成功させる戦略(中編)前中後の3編

【前編のあらすじ】

前編では、現在の住宅市場が直面する「価格の台替わり」という構造変化と、その背景にある実質賃金の低下や家族像の多様化といった地殻変動について考察しました。従来の「モノ売り」の発想では、お客様の価格上昇への抵抗感を乗り越えることはできず、全国大手住宅会社・地場ビルダーそれぞれが構造的な課題を抱えています。

今回は、この難局を打開するための核心、すなわち「注文住宅の本質」に立ち返り、それを基盤とした新たな事業展開、特に営業と設計のアプローチについて具体的に考察していきます。

「注文住宅の本質」を基盤にした注文住宅事業へ

「モノ売り」としての注文住宅事業の限界が明らかになった今、我々はどこへ向かうべきなのでしょうか。その答えは、「注文住宅とは何か」という「本質」に基づいて考えると未来への道が拓けてきます。

「注文住宅の本質」とは何か?

「注文住宅の本質」は、高性能な部材を組み合わせた「箱」を作ることではなく、「個々の家族の暮らしにフィットした、暮らしの器を創ること」です。お客様一人ひとりの価値観、ライフスタイル、将来のライフステージ、未来の家族の姿や夢をお客様と営業/設計が共有し、それを住宅建築として具現化することです。注文住宅にしか提供できない、他の住宅形態(マンション、分譲住宅等)では手に入れることのできない魅力を提供することです。

耐震等級や断熱性能等級といったハード面のスペックは、もはや他社との差別化要因ではなくなりつつあります。住宅のハード性能は、お客様の信頼を得て、商談のテーブルに着くための「パスポート」に過ぎないのであって、この会社で住宅をお願いしたいという「決定力」ではすでに無くなってきています。足切り点とでもいうべき最低限の基準です。

「質問して答えを得たつもりの営業」から「対話する営業」へ

多くの営業担当者が陥りがちなのが、「ヒアリングシートを埋めること」を目的とした「お聞きする営業」です。お客様のご要望を聞き、それをそのまま図面に落とし込む。一見、顧客中心に見えますが、これは単なる御用聞きに過ぎません。この手法の最大の問題点はお客様ご自身が「ご自身の暮らしが見えていないこと」「実現したい暮らし」がどのようなものなのかが見えていないということです。

暮らしとは一体何でしょうか。
端的に説明すれば、「場」と「コト」と「登場人物」で構成されているのが暮らしです。

例えば、モデルハウスでのキッチンという「場」で、お客様とお話をすると、一般的には「キッチンという設備機器」のレイアウト(アイランド型、対面型等)や装備(ミーレの食洗器等の装備機器)、カウンターの材質や、扉などの材質と色柄、収納の量や収納アイデアという「キッチン設備」の説明程度で終わってしまいます。
「暮らしという視点」が抜けているため、まるでキッチンメーカーの営業が話す内容に陥っていますが、お客様も営業もそのことに気づいていません。

「お客様ご自身が暮らす」という視点でキッチンをご案内してみると、まるで違った世界が拡がります。「キッチン」という「場」で、どのような「コト」(例えばどのような料理を作られるのか)を誰と作るのかという「登場人物」によって料理を作るという「コト」の楽しみ方や、利便性が具体的に見えてきます。

例えば、奥様が、3才と5才のお子様とカレーを作るなら、上のお子様に冷蔵庫から野菜を出してきてもらい、用意した台に乗ってシンクでニンジンを洗って、まな板を出して調理台で切るという作業が、奥様とお子様にとってやり易く、作り方を教えながら、楽しい会話ができるのか。下のお子様には食器棚から同じように踏み台を使って、お皿を人数分取り出し、炊飯器からご飯をよそって調理台に並べる等を、楽しく料理を教え、学ぶことができるのか。そこへご主人も参加されるなら4人が動き易く、家族みんなで楽しく食事の準備ができるのかといった、お客様ご自身のキッチンとするためには、モデルハウスのキッチンという「場」の良い点と、「ここは自分たちにとっては使いにくいからこうしたい」というように、「ご自身とご家族のキッチンを組み立てていくこと」が、本来の注文住宅づくりのモデルハウスのご案内の在り方です。そして、もちろんお客様の時間軸で考えて、6年後、12年後のお子様の成長も勘案し、各年代でも家族で料理を創る楽しみ方を想像していただきながら、キッチンという「場」を考えていただき、「ご自身の実現したい暮らし」を具体的に組み立てながら対話を重ねて、ご自身の暮らしにフィットしたキッチンを手に入れていただきます。同様に、様々な部屋や部位での、ご自身の暮らしと実現したい暮らしに気づいていただきながら、「ご一緒にお客様の暮らしにフィットした暮らしの器を創っていくこと」が本来の注文住宅営業です。

モデルハウスに予約されてご来場されたお客様のご案内は、初回面談から「お客様にご自身のご家族との暮らしのシーンを具体的に思い描きながらモデルハウスをご自身とご家族が住むとしたら」という視点で体感体験しながら、ご自身の暮らしにフィットしたお住まいを「具体化」していくプロセスであるべきです。これによって、お客様は、初めてご自身とご家族の暮らしに気づかれ、実現したい暮らしが徐々に明確になっていかれます。つまりお客様の実現されたい暮らしに気づいていただくためには、モデルハウスでの「ここに住むとしてという視点」で「体感体験」いただきながら、お客様と「対話しながら、お客様の気づかれたことに共感し、理解し、共有していくこと」で、お客様の暮らしを「具体化」することができます。これが注文住宅営業です。

個々のお客様視点の付加価値の具現化:「家族にとって大事なこと」を最優先する営業であり設計へ

お客様の暮らし方にフィットした付加価値や価値観と合致する付加価値は、お客様に評価されます。このような個々のお客様にフィットした付加価値提供へのシフトは、注文住宅営業手法や設計思想の根本的な転換を意味します。それは、限られた予算と面積の中で、「その家族にとって最も大事なことは何か」を見極め、そこに、資金を納得の上、増額して集中投下するというメリハリのある注文住宅の実現です。


例えば、同じ35坪の住宅でも、

•「キッチンでの家族のコミュニケーションが何よりも大切」というご家庭には、リビングやダイニングを削ってでも、広々としたアイランドキッチンを中心とした空間

•「夫婦の時間を大切にしたい」というご家庭には、書斎を小さくしても、寝室でコーヒーでも飲みながら夫婦が語り合えるスペース

•睡眠を大事にしたいという方には、防音・吸音性能の高い寝室

設計段階に入れば、面積の割り振りや拡大、さらには、その部位の設備機器/部材のグレードアップなどの重点投資というメリハリの利いた「個々のお客様にフィットした住宅」へ向かうことで、より上位価格帯の客層へシフトすることが可能になります。

このように、家族の重視する暮らしの部位、ご夫婦の価値観/趣向性の優先順位に応じた空間づくりへの資金投入と面積割り振りの強弱をつけることで、「私たちのための家」という注文住宅本来の強い納得感が生まれます。これこそが、単純な坪単価では測れない「付加価値」を持った住宅であり、お客様が価格上昇を受け入れてでも手に入れたいと感じる注文住宅です。

これを実現するためには、営業手法を根本から進化させる必要があります。
ハウジングラボでは、この新しい注文住宅営業手法をいち早く開発し、実際の営業の最前線で大きな実績を上げています。
・「気づき共感営業」方式として、実践可能な営業手法として、注文住宅営業部門の新人からベテランまで、導入可能な状態へ洗練化して用意しています。
https://www.housing-labo.com/lp-support

まとめ

今回は、「注文住宅の本質」とは「個々の家族の暮らしにフィットした器を創ること」であると確認し、それを実現するための具体的な営業・設計アプローチについて考察しました。お客様自身も気づいていない潜在的なニーズを「対話」によって引き出し、「暮らし」という視点から住まいづくりを具体化していくプロセスこそが、価格以上の価値を生み出す源泉です。

しかし、このプローチを全社的に展開し、上位客層の攻略を進め、利益を確保しながら従来客層へも対応し、受注棟数の確保も両立させるためには、より具体的な戦略、すなわち「二正面作戦」の展開と、現代の顧客行動に合わせた集客プロセスの再構築が不可欠です。

次回(後編)は、この「二正面作戦」の具体的な展開方法と、現代の集客プロセスである「一次選考」「二次選考」を勝ち抜くための戦術、そして、この変革の進め方について、述べた上で、3編のまとめも記します。

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