住宅営業のツボは、お客様の暮らしの関心事を掴むこと

住宅設計者がお客様と面談する際は、常にお客様の暮らしの関心事を掴むように心がけます。
住宅設計者がプラン作成に必要な情報を見いだそうとされるのは心情的によくわかりますが、プラン作成の基になる情報はお客様の暮らしに関する情報です。

住宅設計の機軸は「お客様の暮らしにフィットしたプラン」です。
その中でもポイントになるのは、お客様が関心をお持ちになられている「暮らしのシーン」です。

住宅設計者はお客様の価値観と暮らしの理解者

日本人が概ね一律の価値観を持っていた時代は、物質的に充足されておらず「欲しいモノがあこがれの生活と一致」していた時代です。
「3C」と呼ばれた「カラーテレビ」「クーラー」「カー(自動車)」は、豊かな生活の象徴とされ、いわゆるこの「3種の神器」はモノ中心の価値観が支配していた時代の象徴です。

物質的に充足し、女性の社会進出も進み、女性の男性に対する好みも「三高」から「育メン」へと変化し、シングルマザーも普通の存在で、「婚約⇒結婚式/入籍⇒新婚旅行⇒アパートで新婚生活⇒住宅購入」という順序も、「住宅購入⇒新婚旅行⇒パートナー⇒結婚式⇒入籍」というように個々にバラバラで多様化しています。

自身のライフスタイルを尺度にすることは言うに及ばず、一般常識の尺度でお客様の価値観や暮らしを推し量ることが難しい時代になっています。

住宅設計者は個々のお客様と先入観を持たずお客様の価値観を理解し、現状の暮らしを固定観念のフィルターを通さずに生の姿を理解する姿勢を第一義とする時代です。

プラン作成に必要な情報収集に集中すると良いプランは描けない

住宅設計者がおかれた状況は理解しています。
時間が無い中で住宅営業担当者からは早くプランを出せとせっつかれ、予算も敷地の条件も厳しいとなると、「時間無い、予算無い、敷地余裕無い」の「3無い」では「プランはこれしかできない」という住宅設計者の過去の経験が前面に押し出され、いつの間にかお客様は住宅設計の中心から押し出されています。
気がつけば、いったい誰の住宅なのかという事態に陥ってしまいます。

また、多少建築与条件にゆとりがある場面でも、プラン作成に必要な情報にのみ住宅設計者の関心が集まってしまっては「プランは成り立っても楽しい暮らしにはならない住宅」ということもよくある話です。
プラン作成時の住宅設計者のお客様との向き合い方が問われています。

●お客様の現状の暮らしが起点

お客様の現状の暮らしが住宅設計の起点です。

どういう時間帯に、どこで、誰と、どんなことをして過ごしているのかを理解して行きます。「昨日の朝の話ですが7時から夫婦で朝食をとりながら、今日は帰宅時間が二人とも早そうだから夕食は一緒に作ろうとかの話をしていました」というご夫婦は、ご本人が意識しておられないかもしれませんが、朝食の30分間は夫婦のとても良い時間です。
ここに気づいてあげると「隠れている重視ポイント」の発見につながります。
何とか工夫して朝陽が差し込む中での朝食とわずかでも庭の花々を楽しめるような工夫をと考えることができます。

お客様の現時点の暮らしをよく理解するところから住宅設計は始まります。

●お客様の価値観を理解する

お客様の「価値観を理解する」というと難しく聞こえるかもしれませんが、お客様が「大事に思うコト」とか「こうしたい」という意思が住宅設計者に見えて、そうお考えになられた「根拠」を共有できた状態を「価値観を理解した」と考えてください。

お客様がどういう場で、どんなコトを、誰としているのかを詳細にお聴きしていく中で、「当たり前になっていること」や「意思を持ってされている」と住宅設計者が感じたことについてその根拠を丹念にお聴きします。
「根拠の追求」ではなく「お考えを理解したい」という「お客様への強い関心」姿勢を前面に押し出してお客様と向き合います。

お住いの中での日常の暮らしの行動の中から、お客様の意思が強く反映されているか習慣化されていて、本人の自覚がないが関心が強いと判断されたシーンがいくつか抽出できると思います。
これがお客様の暮らしの関心亊です。
その中から暮らしの重心となるシーンを見いだせば、何を軸に住宅設計を進めるのかという設計の中心も決まります。

●良い住宅設計とはどういうものなのか

お客様が幸せと感じるささやかな日常のシーンを、どれだけ質の高いものにすることが出来るのか、という視点を持つ設計が良い住宅設計です。

そういう日常の幸せの中でも、重心位置を占めると考えられるシーンを暮らしの重心としてお客様と共有化します。
住宅設計においてお客様に喜んでいただく設計に大向こうを唸らせるような大技は案外不要です。

何気ない日常の中に幸せの工夫を織り込むという「設計者がお客様の心豊かな幸せを願う小さな工夫の積み重ね」が良い住宅設計でしょう。

「神は細部に宿る」という言葉通りです。

●お客様へ強い関心を持つ

住宅設計はお客様の今後半世紀以上にも及ぶ人生の器づくりです。
多様化した価値観、生活様式の中で個々のお客様の暮らしにフィットした住宅設計をするためには、何と言ってもお客様への強い関心を持つことが重要です。
個々のお客様に「暮らしを楽しみ人生を楽しむ住まいの実現」が出来るように、お客様との向き合い方を日々研鑽しましょう。

まとめ

「会社の事情」がついつい住宅設計に影響して様々なことを省略しがちになります。
もちろんビジネスですから無駄な時間をかけることは許されません。
だからこそ日常の暮らしの中の「お客様の関心事項を掴む」ことが的を射たプラン作成にもつながり、効率的で生産性の高い住宅設計業務になります。

プランを作成するために必要な情報を取りに行くのではなく、お客様を幸せにするためにはどうしたらよいのかという姿勢でお客様と向き合いましょう。



《執筆者》
株式会社ハウジングラボ
代表取締役社長 松尾俊朗
一級建築士

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