住宅建築に関わる資材価格と集客減/新規来場者名簿減の2重苦

住宅建築に関わる資材の価格アップは、世界経済の回復によって資源需要の高まりと国際情勢の緊迫でまだ当分続くようです。
一方で、コロナの第6波の影響で集客減/新規来場者名簿減状態ですが、今後、春の需要期に向って上向くことを期待していますが、何とも言えないという状況です。
コロナ禍が下火になったら先ずはリベンジ消費という鬱積したストレスの開放が先で、その後に後回しにされた住宅需要回復というのが心理的なシナリオとして想像できます。

コロナ禍のような外的要因にも大きく左右され一喜一憂していますが、「日本人の暮らしと住宅建築」という住宅産業界のメインストリームに対して我々は十分に進化しているのでしょうか。検討したいと思います。

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衣食住は人間社会の根幹3要素

衣食住は人間が生きて行く上で欠くことができない3要素ですが、完全に民営化されている産業です。
レナウンという1960年代に一世を風靡したアパレル企業が表舞台から昨年末完全に退場しました。
社名の由来は1922年1月にイギリスの皇太子がお召巡洋艦で訪日された際に、水兵が被っていた帽子の「RENOWN」の文字のスマートさに見とれた創業オーナーが、ブランドに採用したということだそうです。

それから戦後の繊維産業の発展期からアパレル産業への進化を遂げてきました。
その後、中国を中心とする東南アジアのローコスト商品、ユニクロ、H&Mなどの価格破壊を進めながらもデザインが良くなり、新たなライフスタイルに適合してくる企業が台頭する時代に、中高級のアパレルの新たな価値を創造することができないまま、2021年12月に最後の関連企業も市場を去って行きました。
レナウンと称して100年の間の出来事です。

日本に洋風住宅が庶民に紹介されたのも1922年ですから、ちょうど100年、1952年に2DKに日本人が住み始めて70年、○LDKとして和洋折衷の暮らしはすっかり定着しました。

工業化住宅(プレハブ住宅)も同じころに立ちあがり、最近ではローコスト住宅がシェアを拡大し、デザインも性能も良くなって、見た目と表面上のスペックでは中高級住宅とローコスト住宅の差は判別しにくくなり、「住宅のクラスレス化」が進展しています。
このままでは中高級住宅系の企業は、住宅業界の「レナウン」になりかねません。

住宅産業は100年に一度の変革期

「西洋の暮らし直輸入の住宅博」が東京・上野で開催されてから100年、最初の30年間は「和の暮らし」と「西洋の暮らし」を如何に溶け込ませるのかの模索の時代でしたが、1952年の2DKの登場で一応の方向性がはっきりし、その後は部屋数が増えることはあっても大きくその考え方の変化はありませんでした。
むしろ、関心は住宅の耐震性能、断熱機密性能、面積拡大へと官主導(金融公庫の優遇処置とリンクさせて誘導)で向かいました。
さらに、建材・設備部材メーカーの住宅パーツの工業化で、品質と機能が向上し、日本の住宅は「モノとしては世界一」と言ってよいほど良くなってきたと言えます。

「レナウン」が消費者に届けたのは、洋服という製品だけではなく「自由で颯爽と暮らす」都市部の若者、特に女性を時代のリーダーとする新たなライフスタイルでした。
2DKというプランがもたらしたのも、農村部での暮らし方中心の住宅から都市部の給与所得者の4人家族という核家族のファミリー層という「新たらしいライフスタイル」の住宅でした。

その後のライフスタイルの変化に対して、アパレル業界での新たな価値観を提供してリードできなかったにために、レナウンは終焉を迎えたようです。
同じことが中高級住宅系の会社にも言えるのではないでしょうか。
衣料に比べてライフサイクルの長い住宅は、あと10年程度時間を稼ぐタイムラグがありますが、現状の住宅を欲しがっているという潜在需要を構成する人たちのライフスタイルに無関心です。
10年のタイムラグを経てアパレル産業と同じ道を行くのではないでしょうか。

●中高級住宅は大きくモノが良いことなのか

中高級住宅はローコスト系の住宅に比べて「面積が大きい」のと「設備部材」のグレードが高いということなのでしょうか。
プランは同じように「自由設計」です。
これでは「住宅のクラスレス化」の時代で建築資材の高騰が続く中では、「同じ金額を払うなら大きい方が良い」「同じ面積なら安い方が良い」となってしまい苦戦が続きます。

「小さくしないと売れない」し「仕様を落とさないと売れない」と、社内では住宅営業から突き上げが強くなってきそうです。
そうなると中高級住宅の差は一体何になるのでしょうか。
益々「住宅のクラスレス化」が進みそうです。

●新たな付加価値を見いだす

いつの間にか「ダイニング」は「勉強机」と「書斎の机」を兼ねています。
リビングで「ソファー」は「無用の長物」と化しています。
大型TVは映っているが家族はみんなそれぞれのスマホを見ています。
既に「キッチンの最重要機能」は「調理」ではなく「コミュニケーション」になってきています。

新たな付加価値を見いだす商品開発ネタはふんだんにありますが、そこに手を付けていません。
変革に踏み出せていません。

●新たな住宅需要としての「潜在需要の胎動」に気づいていません

2人以下の世帯構成比が全世帯の1/3を超えています。
その中身も従来概念を超えています。

結婚する気のない若者
パートナーと暮らすが必ずしも異性とは限らない
61才の息子と88才の母
76才と72才の姉と弟
シングルマザー等。

とりあえずの仮住まいのアパートなどの賃貸住宅に住んでいるか古くなった親が残してくれた大きな家にそのまま住んでいますが、これはやがてファミリー層になる客層ではなく、生涯このままの暮らしが続くという従来概念では理解できない新たなファミリー層(従来概念からすると非ファミリー層と言ってもよい)です。

大型のペットと暮らしたい
車をガレージで改造したい
ジャズダンスをしたい
音楽を大音響で聞きたい

などは、どれも共同住宅では実現不可能です。
おしゃれな暮らしは親の古い家では難しいでしょう。

この潜在需要の喚起策が出来ていません。
資金的に苦しい方も多いとは思いますが、一方で余裕のある方が多いのも事実です。
見過ごしている大きな需要です。

●「魅力の対価」が付加価値

21世紀に入ってから急速に進んだ暮らしに対しての「魅力的な付加価値」を提示できないでいるのが、現状の中高級住宅層を主体としている住宅会社です。

お客様が支払う「魅力の対価」は「個人の暮らしと価値観を理解する機能」が求められます。

従来の住宅会社の機能は「営業がモノを説明し、設計が住宅というモノのカタチを要求に従ってまとめて、工事がモノを造る」だけでした。


最大の変革ポイントは、「個人の暮らしと価値観を理解する機能」を保有することです。

まとめ

静かに進む「暮らしと提供している住宅のギャップ」の拡大は抜き差しならないところまで来ています。
自動車産業ではないのですが、「100年に一度の変革期」にあって具体策が求められます。

「個人の暮らしと価値観を理解する機能」は「暮らしインタビュー」という具体策などで対応する必要があります。
住宅業界のレナウンにならないように。

〈筆者注釈〉
ちなみに筆者はレナウンの株主になるほどのレナウンのファンでしたので、株主優待のバーゲンセールが大好きで年2回のセールでほぼすべての衣類をそろえていました(このバーゲンセール目当てに株主になったようなものです)。
特にレナウンが買収したアクセスキュータムは品質デザインとも大のお気に入りでした。
レナウンが無くなったことへの寂しさとその盛衰を見るにつけ、住宅業界と重ね合わせてしまいました。
レナウンで頑張ってこられた方を意に反してこの記事で傷つけてしまったとしたら謝罪いたします。
これまでレナウンで良い商品を作っていただき届けてくださった多くの方々へこの場を借りて謝意を表します。

《執筆者》
株式会社ハウジングラボ
代表取締役社長 松尾俊朗
一級建築士

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